がん患者管理においては、鎮痛薬はがんの生育にはほとんど影響しないことから、鎮痛治療と抗がん治療は別に考えられてきた。申請者は、これまでの研究でTRPV1陽性神経の活性化ががんの痛みの伝達とがんの増殖に重要な役割を果たしていることを明らかにした。したがって、TRPV1陽性神経をターゲットにすることにより鎮痛とがん増殖抑制を同時に行うことのできるこれまでにない画期的な治療法を開発できる可能性がある。そこで、本研究では、活性化したTRPV1陽性神経およびTRPA1陽性神経を選択的に抑制できる正に電化した局所麻酔薬を用いて、がんの痛みとがんの増殖を同時に抑制する画期的な治療法開発を目指す。遺伝子欠損マウスを用いた申請者のこれまでの研究で、がん性痛にTRPA1とTRPV1が関与すること、また、腫瘍の増殖にもTRPA1とTRPV1が関与することが明らかとなった。さらに、末梢神経のTRPA1とTRPV1が活性化され、末梢神経からCGRPが放出され、がん増殖が促進されること明らかにした。令和2年度は、正に電化した局所麻酔薬QX-314を用いて、研究を行なった。QX-314は生理的状態では細胞膜を通過できず局所麻酔薬作用を発揮することができないが、TRPV1が活性化された状態では、TRPV1のポアを介して細胞内に侵入し局所麻酔薬を発揮する。そこで、QX-314を全身投与したところ、がんの増殖と痛みは軽減した。さらに、局所のCGRP濃度も低下することが明らかとなった。また、末梢神経活性化のマーカーであるpCREBはTRPV1陽性神経で発現が低下することも明らかとなった。これは、QX-314がTRPV1陽性神経に特異的に作用したことを示す。
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