一般的に、疾患特異的iPS細胞を用いた実験では個々の細胞が有する患者固有の遺伝的特徴がphenotypeとして強く出現することがある。そのため、実験の再現性の向上を目的として、複数のVHL病患者由来iPS細胞(VHL+/- iPS)から野生型VHL遺伝子のノックアウトを行なったVHL-/- iPSの樹立を行なった。具体的にはVHL遺伝子を認識する複数の配列の異なったsgRNAを準備した上で、CRISPR/Cas9 system を用いてwt VHL遺伝子 の Disruptionを行いVHL病患者由来iPS細胞(VHL-/- iPS)を合計で6株樹立することに成功した。また、scramble配列のsgRNAを導入したiPS細胞(VHL+/- iPS)を実験のコントロールとして準備した。 各々のVHL-/- iPSを腎被膜下に移植を行ったところ、いずれの細胞も腫瘍を形成し、一部の組織において患者の病型を反映していると思われる組織像が得られた。VHL腫瘍の一つであるccRCCの発生母地である近位尿細管(PRT)である中胚葉への分化誘導を行なったところmesodermの分化マーカーとともに、ccRCCのマーカーとされる転写因子の発現が確認され、分化誘導が成功していることが確認された。 また、VHL-/- iPS vs VHL+/- iPS でCAGE解析を用いたexpression profileの比較検討を行ったところ、前者においてHypoxia Inducible Factor(HIF)の標的遺伝子の発現亢進を認めた。これらの遺伝子はccRCCに対する新規治療標的分子となる可能性もあることから今後、解析を進めていく予定である。
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