研究課題
精子形成機構を分子レベルで解明することを目的とし、以下の研究を行った。1.非閉塞性無精子症原因遺伝子の同定:非閉塞性無精子症と診断された患者とその両親を対象に、エクソームシーケンスを行い、患者のみにみられる新規遺伝子変異の探索を行った。アレル頻度が低くタンパク質の機能に影響を及ぼす変異を絞り込んだ。2家系について解析を行った結果、それぞれの家系から1個の遺伝子変異が抽出された。2.MD-TESEによる精子回収予測遺伝子マーカーの同定とGWASによる予測モデル式の構築:MD-TESEが行われた患者を対象にエクソームシーケンスを行い、タンパク質の機能に影響を及ぼし、アレル頻度1%以下の遺伝子変異を絞り込んだ。絞り込んだ遺伝子と精子形成との関連を報告している研究論文をPubMedにより検索した結果、MD-TESEにより精子が回収できなかった患者において抽出された遺伝子は精子形成との関連が報告されていた。一方、MD-TESEにより精子が回収できた患者においては精子形成との関連が報告されている遺伝子は見出されなかった。3.GWASによる精液量、精子濃度、および精巣サイズと関連する遺伝子の同定:およそ800人の一般集団男性とおよそ700人の別集団の男性を対象に2段階のGWASを行った結果、精子濃度と関連する遺伝子座を同定することができた。4.遺伝子改変動物作製による同定した遺伝子の精子形成機構の解析:1.で抽出した遺伝子の改変動物を作製し、精子形成の解析を行った結果、精子が形成されない個体もあった。
2: おおむね順調に進展している
非閉塞性無精子症患者を対象とし、原因遺伝子の同定を進めた結果、候補変異を抽出することができた。また、この変異がある遺伝子の改変動物を作製し、精子形成の解析を行った。MD-TESEによる精子回収を予測するモデル式を構築する研究計画においては、GWASによる候補SNPsを抽出することができたが、モデル式を構築するには至っていない。しかし、エクソーム解析から、MD-TESEによる精子回収の予測に繋がる可能性があるデータが得られた。また、GWASにより精子濃度と関連する遺伝子も同定できており、おおむね順調に進んでいる。
精子形成機構を分子レベルで解明することを目的とし、今後は以下の研究を行う。1.非閉塞性無精子症原因遺伝子の同定:今年度はさらに検体数を増やして次世代シーケンス解析を行い、非閉塞性無精子症原因遺伝子の候補を抽出する。抽出した候補遺伝子について、別個の非閉塞性無精子症患者、および妊孕性の確認された男性を対象に、バリデーション解析を行い、患者と健常者の間で比較解析をすることから、新規な非閉塞性無精子症原因遺伝子を同定する。2.MD-TESEによる精子回収予測遺伝子マーカーの同定とGWASによる予測モデル式の構築:MD-TESEにより精子が回収された症例と回収できなかった症例についてGWASを行い、精子回収有無の予測モデル式を構築する。また、次世代シーケンス解析を行い、精子が回収された症例と回収されなかった症例で原因遺伝子の比較解析を行うことで、精子回収の予測を行う。3.遺伝子改変動物作製による同定した遺伝子の精子形成機構の解析:候補として抽出された遺伝子についてCRISPER/Cas9 ゲノム編集システムを用いて遺伝子改変マウスを作製し、精子産生能、精子機能、受精能、精巣生検像を解析する。4.臨床検体の精巣生検を用いた、同定した遺伝子の精巣内局在部位の解析:非閉塞性無精子症患者のうち、同定した遺伝子の変異をもつ患者を対象に精巣組織の組織切片を作製し、同定した遺伝子がコードするタンパク質の精巣内局在部位を免疫組織化学染色法より、無精子症の原因を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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