研究課題/領域番号 |
17H04341
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
早川 智 日本大学, 医学部, 教授 (30238084)
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研究分担者 |
相澤 志保子 日本大学, 医学部, 准教授 (30513858)
川名 敬 日本大学, 医学部, 教授 (60311627)
森岡 一朗 神戸大学, 医学研究科, 特命教授 (80437467)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 口腔細菌 / 胎盤マイクロバイオーム / ジカ熱 / TORCH症候群 |
研究実績の概要 |
胎盤・羊膜由来幹細胞培養系を樹立し、分化誘導した幹細胞あるいはstemに近い性状を有する樹立絨毛細胞に ウイルスを加えてウイルス抗原量を定量し、蛍光顕微鏡で複製動態を観察した。胎盤組織からDNAを抽出し,細菌特異的な16sRNA遺伝子をターゲットとしたPCR法並びに次世代シークエンサーにより細菌由来ゲノムを定量した. そして培養絨毛細胞に口腔細菌、膣常在菌である各種乳酸菌を添加し、絨毛細胞機能を解析した. その結果、胎盤には正常妊娠でも特異なマイクロバイオームが存在し、その構成菌の主体は、乳酸桿菌であり、一部乳酸球菌が存在することが判明した。乳酸桿菌は乳酸と過酸化水素により,乳酸球菌は産生するバクテリオシン、とくにNisinがグラム陽性菌のみならず、大腸菌や緑膿菌などのグラム陰性菌、嫌気性菌の発育を阻害することを明らかにした。この活性は他の抗菌薬や宿主由来の抗菌ペプチドとは交叉耐性が見られなかった。乳酸桿菌の中では、L.crispatusは膣上皮の創傷部に集まってその再生を促進したが、絨毛ではこのような活性は見られず、むしろ再生を阻害した。歯周病菌P.gingivalisは絨毛細胞の浸潤を強く抑制し、また初期胚の形成を阻害した。膣の再生では菌体産物によるTLR刺激が増殖を刺激したが、絨毛や羊膜ではTLR刺激によりウイルス感染に対する抵抗性が誘導され、これはtypeI interferonを介する可能性が示唆された。さらに、胎盤自体の産生するexosomeが母体面からautocrineに作用して絨毛へのウイルスの取り込みと接着を阻害することが判明した。本研究の遂行にあたり、胎盤、膣、消化管に存在する種々のバクテリアやウイルスを培養せずに定量する技術の開発が要求され、multiplex PCR,LAMP,RFLPによる解析技術を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジカ熱自体の胎盤感染系は確立できていないが、胎盤にマイクロバイオームが存在し、とくに乳酸菌が胎盤機能を調節していることが明らかになった。ジカ熱ウイルスは直接胎盤絨毛に感染する効率は非常に悪く、近年のデング熱に対する抗体保有者で、抗体依存性の感染増強が生じている可能性がある。また、我々が風疹で明らかにしたように、炎症性サイトカインやTLRリガンドの存在下でtrophoblastic columnがEMTを起こし、その間隙から直接胎児側のマクロファージや血管内皮細胞に侵入する可能歳が高い。一方、従来腟内の優位菌であっても子宮や胎盤には少ないと考えられてきた乳酸菌が少量ながら子宮内に存在することからその意義を検討した。乳酸菌の一部は腟上皮の再生を促進し、絨毛細胞の浸潤を促進することが明らかになったが、ウイルス抵抗性についても現在検討中である。ジカ熱の複数のウイルス株は現在収集中であり、母子感染を起こした株とそうでない株の差異を検討している。現時点では、絨毛細胞自体の感染抵抗性に関与する因子を同定するに至っていないのでこの解明が今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
培養絨毛細胞に対するジカ熱感染系を確立する。すなわち、我が国(国立感染症研究所と長崎大学)からジカ熱ウイルス標準株を入手する。次に、サンパウロ州立大学から母子感染株を入手し、絨毛細胞に対する感受性を検討する。交差反応による感染増強作用が報告されているデング熱抗体(モノクロ―ナル抗体あるいは患者血清)を入手し、これによるFCレセプター依存性の感染を検討する。さらに、口腔あるいは下部女性生殖器に存在する微生物あるいはその培養上清を添加して感染効率を検討する。絨毛細胞のほかに、羊膜上皮細胞に対する感染経路をあわせて検討する。先に述べたように、現時点では絨毛あるいは羊膜細胞自体の感受性と、細胞内の感染抵抗因子に関する検討はおこなっていないので、平成30年度以降は細胞内機構も併せて検討する。現時点では感染した細胞の動態が明らかでないので、本年度以降はタイムラプス撮影により感染細胞の変性とアポトーシス、NK細胞による傷害の時間的変化を検討する
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