研究実績の概要 |
ジカウイルスは,妊婦が感染すると高い頻度で胎児に小頭症をはじめとする重篤な神経障害を来す.我々は近年明らかにされた子宮内の常在菌叢と局所免疫,胎盤の上皮間葉移行に着目し,垂直感染機序の解明とその制御を目的とし、絨毛外栄養膜細胞のモデルとして、ヒトトロフォブラスト由来HTR-8/SVneo細胞を用い、子宮内に常在する可能性のある乳酸菌、上行性あるいは血行性に子宮内に到達する可能性のあるEshelichia coli, Staphylococcus aureus, Porphyromonas gingivalisの生菌あるいは培養上清を処理した。細胞のViabilityと可動性,マトリジェル浸潤を観察し、併せて風疹ウイルスとジカウイルスの複製に及ぼす影響を検討した。その結果、乳酸桿菌の中でもLactobacillus crispatusはHTR-8/SVneoの間質浸潤を強く促進したがLactobacillus acidophilisはHTR-8/SVneo細胞の浸潤に影響を与えなかった。マイクロアレイ解析とリアルタイムPCR解析により、その機序はMMP-1の発現亢進を介することが明らかになった。Eshelichia coli, Staphylococcus aureus, は強い細胞毒性を示す一方Porphyromonas gingivalis 細胞毒性は弱いが、間質浸潤を強く抑制した。しかしながら、ウイルス複製についてはいずれの細菌も影響をおよぼさなかった。また、ウイローム解析では内因性レトロウイルスを含む複数のウイルス遺伝子発現を認めたが、現時点で垂直感染に関わる他のウイルスの特異的存在は認めなかった。これらのウイルス複製に影響する細胞内シグナル解析では、TLR3の発現上昇を認めたが、RIG-Iシステムは発現の変化を見なかった。病理標本では、合胞体細胞にウイルス抗原の染色性が見られたが、cytotrophoblastやinvasive trophoblastには見られなかった。
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