研究課題/領域番号 |
17H04341
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
早川 智 日本大学, 医学部, 教授 (30238084)
|
研究分担者 |
相澤 志保子 日本大学, 医学部, 准教授 (30513858)
川名 敬 日本大学, 医学部, 教授 (60311627)
森岡 一朗 日本大学, 医学部, 教授 (80437467)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 母子感染 / 絨毛細胞 / 子宮内細菌叢 |
研究実績の概要 |
ジカウイルスは,2015年より南米を中心に爆発的に流行し妊婦が感染すると,高い頻度で胎児に小頭症をはじめとする重篤な神経障害を来す。しかし,子宮内感染のメカニズムやこれに関わるリスク因子は不明である。我々は近年明らかにされた子宮内常在菌叢と局所免疫,胎盤の上皮間葉移行に着目し,生殖免疫学の立場からジカウイルス垂直感染の機序を解析してきた。現時点で,不死化正常絨毛細胞や絨毛がん細胞株とジカウイルスを用いた,in vitroの実験で,1)ZKV感受性は絨毛細胞の分化度に大きく依存する。2)胎盤へのZKV感染は必ずしもレセプター依存性ではなく他の機構―エンドサイトーシスやFcレセプターを介する可能性がある。3)疫学的に推定される抗体依存性の感染増強(特に抗デング熱抗体)の可能性があるが,どのエピトープに結合した抗体がウイルスを不活化しないままに感染させるかは不明である。4)グラム陰性菌由来のLPSや,ウイルス由来二本鎖RNAに類似したPoly ICなどTLR由来のシグナルが胎盤における感受性を増強する可能性がある。5)子宮内に少量存在するLactobacillus crispatusなどの乳酸桿菌は絨毛の増殖や間質浸潤などの生理機能に加えて,ZKV,風疹などのウイルスの感染を抑制する可能性がある。以上5つのことが明らかになった。現在,絨毛細胞の感染を経ず,直接にZKVが絨毛内の血管内皮細胞に侵入する機序を解明するため,腟内,子宮内常在菌と口腔内細菌を培養絨毛細胞シートに添加してバリアが破綻するや否を解析するとともにウイルス変異による感染性の変化を検討中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
長崎大学よりジカ熱標準株を入手することにより、試験管内での感染モデルが大きく前進した。一方では2015年からの流行は収束したため、臨床検体の解析ができる検体は増えていない。今後、ウイルスの絨毛細胞への感染並びに胎盤バリア破綻に及ぼす細菌産物の評価するため、複製能のあるZKVをチャレンジし、 アポトーシスなどの細胞死や変性、マトリゲル浸潤能、 hCG産生能など生物学的性状を明らかにする。さらに感染成立に及ぼす細菌産物の役割を検討するため,栄養膜細胞シートと血管内皮シートを非接触条件で共培養する絨毛模倣組織培養セルを作成し詳細な検討を行う予定である。臨床検体については、東南アジア諸国から垂直感染症例の胎盤サンプルを収集し、現地で組織を固定して感染力を失わしめた後に日本大学に検体を送付して免疫組織化学ならびにマイクロバイオームとウイローム解析を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今までに得られた知見をもとに細菌産物とZKVを胎盤オルガノイドに添加し, 絨毛バリアを超えて血管内皮に感染するZKVの効率を定量する。次に,マイクロバイオームによるバリア破綻の分子生物学的機序を解明の手段として細菌産物による変化の責任分子を同定するため,マイクロアレイ解析により発現に変化が認められた遺伝子をsiRNAを用いてノックダウンし,EMTに及ぼす影響を検討する。さらに,TNFやIL-βなどウイルス複製に影響する炎症性サイトカインやインテグリン等の影響を検討し,マイクロアレイ結果のデータマイニングとパスウエイ解析を行い,経胎盤感染を制御するのに有効な標的分子を解明する。垂直感染成立例のマイクロバイオーム並びにウイローム解析するため,南米並びに さらに,母体免疫系による胎盤ウイルス感染の制御を解析するため,ZKVウイルス中和抗体や交差性の強いデングウイルスエンベロープ上のエピトープ特異的なモノクローナル抗体を培養系に添加し,ウイルスが周辺細胞へ感染波及することの抑制活性あるいはFcレセプターを介した感染増強の有無を解析する。さらに,ウイルス感染におけるウイルスサブタイプによるマイクロバイオームおよび交差抗体修飾感受性と垂直感染効率を解析する。2020年現在,ジカ熱の流行はほぼ終息しているが,今後いつまたアウトブレイクするかは分からない。さらに,今年になって新型コロナウイルスの世界的大流行が始まり,妊産婦における感染者も多い。その一部には子宮内感染を来した事例が報告され,不幸にして死産や新生児死亡を来したとする報告もある。ジカ熱と新型コロナウイルス感染症に限らず,子宮内感染を来すウイルス感染症は少なくないので,子宮局所におけるマイクロバイオータの解析は母子感染を予防するうえで重要な知見が得られると考えられる。
|