研究課題/領域番号 |
17H04342
|
研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
鈴木 直 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (90246356)
|
研究分担者 |
塚田 孝祐 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (00351883)
高江 正道 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 講師 (00621301)
杉下 陽堂 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (20587745)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 生殖医療 / 卵巣組織凍結 / 卵巣組織移植 / 卵巣予備能 / 精巣組織凍結 |
研究実績の概要 |
1)卵巣組織輸送に関する研究:卵巣組織凍結・移植の技術が広く妊孕能温存治療として普及するためには、摘出卵巣を安全輸送・凍結管理するシステムの確立が急務である。卵巣の輸送保存時間が卵巣組織の凍結融解移植後の妊孕性に及ぼす影響を明らかにするため、マウス検体を用いた卵巣保存時間と移植後性周期再開の関係を検討した結果、移植後約半年の移植卵巣萎縮率は、保存時間と相関して高い事が明らかとなった。現在論文投稿準備中である。 2)新しい卵巣予備能検査の開発:我々は光干渉断層系の技術を用いて齧歯類における原始卵胞の非侵襲的可視化を報告し(Scientific Reports 2017)、更にヒト卵巣内の原始卵胞可視化に成功している。光干渉断層系の非侵襲性を確立するために近赤外線発生装置を作成し、これまでの実験で用いてきた光干渉断層計が発生する60mW/m2から240mW/m2までのエネルギー量をマウス卵巣に対して照射し、照射による体外受精成績に与える影響の検証を行った。結果、光干渉断層計で照射される近赤外線照射の非侵襲性が実証される知見を得るに至った。一方、卵巣内の原始卵胞を可視化するために最適な光干渉断層計の作成に取り組んでおり、光干渉断層計の設計図の考案と予備実験を繰り返し行い、より高解像度の画像を短時間で撮像が完了するための検証を行った。 3)ガラス化凍結法を用いた精巣組織凍結法の開発:現在、精巣組織凍結の標準的な方法は緩慢凍結法であり、ガラス化法よりも優れているとする報告が少なくない。我々は摘出したドナーマウス精巣を超急速冷凍法(Vitirifcation法)にて精巣組織凍結を実施し、融解後移植した。移植後精巣組織生着率が悪く、凍結液の濃度調整が必要であることが明らかとなり、管腔臓器に適した凍結保護剤(耐凍剤)濃度を検討した。今後詳細に検討を重ね、より安定した技術確立を目指す予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)卵巣組織輸送に関する研究:摘出卵巣を保存、輸送し、凍結管理するシステムの確立を目指すには、初めに齧歯類にて有効な結果を得ることが重要であるが、その目標は達成されたと考えている。本研究の論文投稿を目指し、現在データ整理を行っている。今後は大動物にて再現性を確認する必要性があると考えている。 2)新しい卵巣予備能検査の開発:本研究に用いる機器の作成に時間を要するため、実験そのものの実施が遅れたことが理由のひとつとして挙げられる。しかしながら、光干渉断層計のシステムおよび画像化プログラムの開発は容易ではなく、ある一定の期間は必要と考えられる。 3)ガラス化凍結法を用いた精巣組織凍結法の開発:精巣組織凍結の標準的な方法は緩慢凍結法であり、ガラス化法よりも優れているとする報告が少なくない。精巣組織凍結は、融解後精巣の生着率が悪いデータを得ているが、本研究にて凍結液自体に問題があることが明らかになった。この問題点の解決に向けて追加実験を行う予定であり、次なる方向性が明確となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
1)卵巣組織輸送に関する研究:平成29年度で得られたマウス検体での実験結果を卵巣サイズがヒトに近いカニクイザルで確認する事を検討していた。2017年中村らによりヒト卵巣による緩慢凍結法と超急速冷凍法による耐凍剤の遺残検証にて、超急速冷凍法では凍結卵巣を融解した直後、緩慢凍結法と比較して耐凍剤が多く残存していると報告された(Y Nakamura et al; Reproductive Bio Medicine Online,2017)。我々はこの輸送実験検討に先立ち、DMSO、プロパンダイオール、エチレングリコールを凍結液の耐凍剤として用いたウシ凍結卵巣を融解後、卵巣組織培養を実施し、耐凍剤が培養時間に比例して減少する割合を確認するとともに、耐凍剤が卵胞に対しどのような障害を引き起こすのかを確認する。 2)新しい卵巣予備能検査の開発:今後は、卵巣組織移植の臨床に用いるために最適な光干渉断層計の作成を目標としている。そのため、第一にさらなる非侵襲性および安全性の検証が必要と考えている。具体的には、さらに高エネルギーを照射することのできる機器をもちいた体外受精成績の変化の検証、近赤外線照射された卵巣から得られた産仔の正常性の確認などが挙げられる。また、第二にヒト卵巣という大型の臓器を短時間で撮像でき、卵巣皮質の深い部分まで撮像可能な光干渉断層計の構築を進める。さらに、内視鏡などと組み合わせることが可能な小型化された機器の考案も進めてゆく。 3)ガラス化凍結法を用いた精巣組織凍結法の開発:これまでの先行研究結果をもとに、精巣組織凍結の低い移植組織生着率を向上するために精巣組織凍結時の耐凍剤の検討として耐凍剤の濃度調整が必要であると考えている。また合わせて精巣移植部位の生着率の検討についても行う。
|