本年度も、上咽頭癌のみならず中咽頭癌についても頭頚部癌のウイルス発癌および転移機構の解明という視点で研究を発展させた。中咽頭癌では癌細胞からROSが発生していることが確認され、また、SOD2の発現低下とROSの発生が相関していることが判明した。腫瘍サンプルについて次世代シークエンサーによりミトコンドリアDNA変異を引き続き症例を追加して解析した結果、腫瘍上皮部分と比較して腫瘍部分ではそれぞれシチジンデアミナーゼならびにSOD2が関与する変異が認められ、変異を有する症例では転移が進行する傾向を認めた。 上咽頭癌に関する研究中、LMP1の発現によりシチジンデアミナーゼの発現が促進され、ミトコンドリアDNAの変異が誘導されていることが判明した。さらにその結果、リンパ節転移が促進していることが臨床検体で確認できた。EBV関連癌と非関連癌で転移の様式に相違があることが示唆された。SOD2やシチジンデアミナーゼが転転移を促進するのみならず、腫瘍mutation burdenを推測するためのバイオマーカーとなり得ることも併せて示唆された。一方、LMP1を発現している細胞がROSを産生することは容易に確認できた。 ミトコンドリアDNAの変異と癌の転移傾向の間には相関を認めながら、シチジンデアミナーゼの発現が亢進している細胞では上中咽頭癌ともに転移を来す傾向があった。細胞の上皮間葉移行や浸潤・転移因子の発現が関与している可能性がある。 以上のように、頭頚部癌のウイルス発癌・転移機構ではミトコンドリアが何らかの形で関与していることを示し、腫瘍標本を用いてそれを確認できたことは大きな成果であった。
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