研究課題/領域番号 |
17H04355
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
黒田 達夫 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (60170130)
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研究分担者 |
田口 智章 九州大学, 医学研究院, 教授 (20197247)
渕本 康史 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任教授 (40219077)
大喜多 肇 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (50317260)
清水 隆弘 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (80626705)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 小児がん / 免疫チェックポイント蛋白 / 腫瘍幹細胞 / 免疫療法 / PD-1 / PD-L1 |
研究実績の概要 |
C3H系マウスにほぼ100%肺転移を起こす骨肉腫LM8細胞株を移植する進行期小児・若年性がんモデルを確立し、このモデルで免疫チェックポイント阻害(PD-L1抗体 、Tim-3抗体)およびT細胞賦活剤であるOX-40抗体による免疫系賦活を同時に行う新規免疫療法プロトコールの効果を検証する実験系を開発した。研究初年度にこの免疫賦活併用の免疫チェックポイント蛋白阻害プロトコールにより、転移巣に対する著明な腫瘍縮小効果と生存率の向上が得られることが示された。さらに今年度にかけて、この実験系において、原発巣切除後の上記免疫療法追加により、免疫療法もしくは原発巣切除のみの場合よりも有意に高い生存率が得られることが示された。この結果は、従来、転移巣が消失しなければ根治的治療手段はないと認識されていた小児がん集学的治療の組み立てを根幹から見直させる大きな意義をもつものと考える。今年度は、より低年齢に好発する神経芽細胞腫細胞株を用いた動物モデルの開発に着手している。 一方、研究者関連の複数の小児医療施設における倫理審査承認を受け、臨床標本の収集・検討を開始した。今年度までに20症例の27検体で病理学的解析が開始された。先行研究では化学療法後の残存腫瘍細胞は化学療法抵抗性の幹細胞的特性を反映して幹細胞マーカーの発現率が高いことが示唆され、残存腫瘍細胞における免疫チェックポイント蛋白の発現を臨床検体で明らかにし、免疫療法の有用性を検討することが本研究の重要な目的である。一部の抗体による染色性を検討したところでは、化学療法前後の検体とも免疫チェックポイント阻害蛋白PD-1の発現は弱く、今後、免疫細胞浸潤や免疫チェックポイント蛋白、腫瘍幹細胞関連抗原の発現と臨床的特性の相関についてさらにヒト臨床検体を継続的に集積し、分析してゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.小児がん臨床検体、臨床情報の収集、循環腫瘍細胞(CTC)・微小転移細胞(DTC)の株化ならびに腫瘍幹細胞株における免疫チェックポイント蛋白の発現検索:IRB審査申請・承認が得られ、今年度までに20症例より27検体が収集された。うち化学療法施行前が11検体、施行後が16検体で、7症例では化学療法の前後の経時的検体が得られた。CTC、DTCに関しては新鮮検体からの迅速な採取が現実的には難しい場合が多く、今年度も株化には至っていない。 2.既存の小児がん株からの腫瘍幹細胞の分離・培養:分離・培養は今年度も昨年度に続いて動物実験の進展で着手が遅れている。 3.腫瘍組織における幹細胞マーカー、免疫系細胞の検索:臨床検体、動物実験モデルで検索を進めている。現時点までの解析では、18検体(化学療法前8検体、化学療法後10検体)でPD-L1の発現が検討されたが、いずれも発現は極めて弱く、免疫細胞浸潤や幹細胞関連抗原の発現と腫瘍の臨床的特性の示唆には至っていない。 4.マウス実験モデルにおける腫瘍幹細胞マーカー、免疫チェックポイント蛋白発現の検討:今年度は新たに神経芽細胞腫株を用いた実験モデルの開発に着手し、パイロット研究では骨肉腫モデルと類似した結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
動物実験モデルにおける検証については、今年度、新たに、最も代表的な小児がんである神経芽細胞腫モデルの開発に着手し、順調な研究の進捗が得られている。転移巣のある進行がんに対しても化学療法による全身状態の悪化前に外科治療を組み込む新たな治療戦略、免疫チェックポイント蛋白阻害による肺転移巣の制御効果や、生存率の改善などにつき、神経芽腫モデルでもこれまでの骨肉腫モデル同様の有効性がみられるか、免疫チェックポイント阻害剤とT細胞賦活剤を併用する免疫療法の効果を検証したい。また、免疫チェックポイント阻害剤の有効性は腫瘍量に大きく左右されていることがこれまでの研究で示されており、転移性神経芽腫モデルにおける検証などについて、新たな治療戦略開発に結び付くトランスレーショナルな実験・検証を展開する。これにより今後の免疫療法も加えた小児がん集学的治療における外科治療の在り方を左右する非常に重要な情報が得られることが期待される。 臨床検体については、諸種の免疫系、腫瘍幹細胞系マーカーの発現に関して免疫組織学的分析が進行しつつあるが、新鮮検体からの腫瘍幹細胞株化に関しては、新鮮検体獲得の機会が稀少であることなどから、今年度も研究は進んで居ない。パラフィン切片標本に関しては、順調に収集検体数が増えており、諸種の抗体の染色性を検討し、データを累積してゆく。 関連の病院に協力、連携をひろく呼びかけて、検体の確保に次年度も継続的に努力する。 概ね計画書の予定に沿って研究を進めてゆきたい。
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