敗血症は病原体感染により引き起こされる全身性炎症反応症候群である。敗血症の治療を行う上では病原体の排除を行いつつ、過剰な炎症反応を回避するという緻密な制御が必要である。自然免疫応答は感染防御の最前線を担い、炎症の誘導に働くことから、自然免疫応答の活性化制御機構を明らかにすることは敗血症の病態の理解と人為的制御法の開発において重要である。アラジンー1は肥満細胞や骨髄球系細胞に発現し、細胞内領域のITIM配列を介した脱リン酸化酵素との会合により抑制性シグナルを伝達する、免疫チェックポイント受容体である。敗血症におけるアラジンー1の役割を明らかにするため、盲腸結紮穿孔法(CLP)による腹膜炎モデルを検証したところ、野生型と比較してアラジンー1遺伝子欠損マウス(KO)では生存率が有意に亢進した。腹膜中の細菌数や各種免疫細胞数や割合に有意な差は観察されないが、IL-6およびTNFの産生量がKOで有意に低く、一方、抗炎症性サイトカインであるIL-10産生はKOで有意に亢進していた。腹腔マクロファージをin vitroでLPS刺激したところ、KOで有意にIL-10産生が亢進したことから、アラジンー1がTLR4シグナルを抑制することが示唆された。アラジンー1はITIM配列を介して脱リン酸化酵素SHP-1と会合することから、野生型とKO由来の腹腔マクロファージをin vitroでLPS刺激する前後の細胞のSHP-1の会合とSHP-1のリン酸化を生化学的解析をしたところ、KO由来のマクロファージでLPS刺激前からSHP-1のリン酸化が亢進しており、LPS刺激により野生型との違いが顕著になることが観察された。 以上の結果より、アラジンー1はTLRシグナルを抑制することでIL-10産生を抑制し、抗アラジンー1抗体でアラジン-1の機能を阻害することにより敗血症を治療できる可能性が示唆された。
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