研究課題/領域番号 |
17H04364
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
今村 行雄 同志社大学, 研究開発推進機構, 学術研究員 (90447954)
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研究分担者 |
村上 由希 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (50580106)
小倉 裕司 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (70301265)
松浦 裕司 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (10791709)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 敗血症性脳症 / 海馬 / タンパク質 / 網羅的統合解析 / 質量分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は救急医療の現場において重症敗血症の生存者におこる敗血症性脳症に焦点を当てる。有効な生体指標を見出し、敗血症性脳症の積極的治療介入方法を探索することにより、従来の対症療法を主とした治療法を再考察する。本年度は、当初の研究計画に基づき、敗血症性脳症の網羅的統合解析から敗血症性脳症の分子病態解明に役立つ新たな生体指標を見出した。具体的には下記の実験を行った。マウスを正常群、病態群、治療介入群にわけ、脳の海馬を摘出した。脳の海馬は敗血症患者がしばしば呈するせん妄症状において変化が顕著という先行研究がある。本研究では病態誘導、治療介入は炎症誘発物質を腹腔内投与し24時間後に治療介入を加えた。各々の標本群からタンパク質を抽出し、溶解液に懸濁させる。各標本の基準タンパク質量をそろえたのち、脱塩処理、フィルター処理等を経て質量分析計(LC-MS;サーモサイエンティフィック社製、QExclusive)を用いて病態および治療介入により顕著にタンパク質量が変動する分子群を測定した。その結果、2014種類の変動するタンパク質を見出した。標準タンパク質によりデータをノーマライズした結果、98種類のタンパク質群が病態誘導によりその発現量を顕著に変化させることがわかった。またそれらのタンパク質群は治療介入により正常群と同じレベルに回復することも分かった。98種類のタンパク質群は、それぞれ脳のイオンチャネル制御、可塑性の制御、オートファジー制御などの分子群を含んでいた。さらに、これらのタンパク質群の中にはこれまでの研究で着目されなかった多くのタンパク質群を含み、新しい生体指標が見出されることが期待される。以上の測定および解析は理化学研究所脳神経科学センター(CBS)のRRDユニットの支援を受けて行った。最後に本年度の研究に関わる報告は原著論文3報、総説1報、学会発表2報を国際誌等に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究課題2年目である。当初の研究計画では敗血症性モデルマウスを用い、超音波などによる迷走神経刺激により脳症の治療介入効果を検討し、さらにmRNAあるいはタンパク質等の網羅的分子機能解析から新しい治療介入に関わる生体機能分子を探索するというものであった。本年度は、まず治療介入効果を炎症時に体内で上昇する炎症性サイトカイン(インターロイキン1, インターロイキン6など)の数値変化から確認した。次に、生体機能分子は最終的にタンパク質の異常という形で脳機能障害を引き起こすと仮説を立て、その仮説を検証するため、タンパク質分子の網羅的機能解析を行った。研究実績の概要の欄でも述べたが、最終的に98種類の新しい機能候補分子が見出され、現在、共同研究者とともに議論を重ねつつ、最も有効な機能分子群を選定する段階まで来ている。以上の状況を鑑みるに現在までの進捗状況は極めて順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、非侵襲による生体の観察手段、治療介入の有用性、また治療加入による生体機能分子群がわかりつつある。今後はこれらの研究成果に基づき、3つの研究構想を考えている。一つ目は非侵襲計測の適用可能性である。しかし、これについては現段階ではこれ以上の進展は難しいと言わざるをえない。その理由は、現時点では空間解像度やシグナルノイズ比の問題からこれ以上の計測精度を上げることが難しいからである。二つ目は、治療介入の有用性である。本治療介入方法は、迷走神経を非侵襲で刺激し、過剰な炎症反応を抑えつつ、機能回復を測る手段を重層化していくというものである。すでに抗炎症効果は見出されているが、最終的にヒトの患者さんに応用することを想定することを鑑みるに、様々な角度から安全性を検討する必要があると考える。例えば、迷走神経反射による徐脈がおこらないかどうかなどを心電図などで慎重に検討する必要があると考えており、本年度はそれらを含めて検討を重ねていく予定である。最後に、3つ目であるが、敗血症性脳症に関わる新しい機能分子を(もし可能であれば)、活性制御し、実際に治療介入効果が同等にあるのかどうかを検討していく。仮にもし現時点で(最適な薬剤がないなどの理由により)難しいのであれば、既知の炎症性分子を可視化し、脳または腹腔内の免疫細胞において治療介入前後で炎症マーカーが実際に変化しているかどうかの検討を重ねていく。腹腔内を想定したのは、敗血症モデルマウスの原発巣は腹腔内にあることが多く、そこからの多種多様な免疫細胞群の動態が病態を引き起こしていると考えられているためである。このように、今後の推進方策としては当初の研究計画書で示した通り、「転んでもただではおきない」を念頭に置き、多種多様な研究手法を組み合わせて相乗的な研究成果を実現していくつもりである。
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