研究課題
「歯科第三の感染症」とも称される誤嚥性肺炎を含めた肺炎は,耐性菌の出現と高齢社会を迎え増加・重症化している.本研究では,好中球を利用する肺炎球菌の病原機構を詳細解析し,その制御法を最新の多分子同時解析装置等で検索することにした.肺炎球菌が自己溶菌することは,古くから研究され報告されてきた.また,ヒトの肺炎球菌感染部位には,好中球が類縁レンサ球菌と比して多量に浸潤することも,近年の病理診断から明らかになっている.さらに,国内外の感染症の専門臨床医が,好中球に内在するプロテアーゼの阻害剤を投与すると,肺炎重症化を軽減できると報告している.しかし,これらを総合的に捉え 分子解明した研究論文は国内外に存在していない.そのため,計画初年度は,肺炎が重症化する分子機序について,肺炎球菌側とヒト好中球側の2方向から明らかにするための以下実験を行った.<自己溶菌した肺炎球菌から漏出する病原分子の同定>.すなわち,病原因子のin silico同定を可能にするため,使用する肺炎球菌は全ゲノム公開株のD39株,R6株およびTIGR4株を選択した.肺炎球菌を細胞培地に血清を添加した条件で培養し,自己溶菌が生じる24時間まで37℃で静置した.続いて,培養液を遠心とフィルター濾過し,未溶菌の細菌を除去してサンプルとした.SDS-PAGE電気泳動でサンプルを分離後に,MS/MS質量分析を外部受託にて行った.PC上で肺炎球菌のゲノムデータと対合し,漏出タンパク質群をin silico同定した.次に,MS/MSを用いたin silico解析から得られた遺伝子情報を基に,順次,組換えタンパク質を作製した.そして,作製した組換えタンパク質をヒト好中球に添加し,37°Cで1時間反応させた後,顕微鏡下で形態観察とLDH遊離実験で細胞傷害活性を調べ,病原分子を同定した.その成果は,国際学術誌に報告した.
2: おおむね順調に進展している
申請調書に記載し,計画を立案していた肺炎重症化に関与する新規の病原因子をStreptococcus pneumoniaeから三種類も決定することが出来た.そして,その成果を国際学術誌のCellular Immunology誌から,国内外に向けて発信することも年度末に達成できている.さらには,次年度計画に必要なマウスの肺炎重症化モデルの作出にも,概ねの目処を立てることも出来ている.また,新規病原分子の同定ではないが,先行研究で申請代表者らが報告したStreptococcus pneumoniaeの特異的毒素が,ヒト細胞株やマウス実験系で肺炎の重症化を増悪させるメカニズムを世界初で明らかに出来た.同研究成果の英語論文についても,年度末から本報告書執筆の計画二年目の初頭に,インパクトが高い国際学術雑誌に受理されている.
計画の2年目は,<自己溶菌した肺炎球菌由来の漏出分子による好中球の細胞傷害解析>および<傷害を受けた好中球から漏出する分子のヒト組織為害性の検索>を中心課題に据えて実験を進捗させる予定とする.すなわち,前年度までにスクリーニングした 肺炎球菌の病原因子(Streptococcus pneumoniae シャペロンタンパク3分子;2018年のCellular Immunology誌にて報告済み)を96ウェルプレートに分注し,それぞれに好中球を添加する.続いて,Luminex多分子同時解析装置で1ウェルごとの好中球が産生するサイトカイン,傷害され漏出するミトコンドリア等の内在タンパク質,好中球ゲノムを同時定量する.次に,初年度に同定できた,好中球内部から肺炎球菌により漏出したサイトカインや傷害マーカー(ミトコンドリア断片やゲノム断片等),あるいはプロテアーゼ類をAKTA自動カラムクロマトグラフィー装置で精製する.好中球の細胞数が少なく,以降の実験に必要なサイトカインやプロテアーゼ等が精製できない場合は,製品で同等品を購入するバックアッププランで対応することも想定する..続いて,ヒト肺胞上皮細胞株およびヒトのマクロファージ様細胞株に,上記手順で調整(あるいは購入)した好中球内部のプロテアーゼ等を添加し,ヒト組織への傷害性ならびに機能抑制能を分析する.細胞傷害はLDH遊離量から算出し,マクロファージ様細胞の機能抑制はpHRodoラベル細菌(MolecularProbe社製品)を貪食させて定量する.
寺尾 豊:内閣官房/文部科学省/厚生労働省/農林水産省,第1回AMR対策普及啓発活動表彰,2017年6月26日
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