研究課題
象牙質の修復過程において、歯髄幹細胞(DPSC)の象牙芽細胞への分化の誘導は必須のイベントである。本申請研究では、遺伝子改変マウスを用いたフェイトマッピング解析により、DPSCを特定し、その象牙芽細胞への分化メカニズムの解明を目的とした。我々は、LepR陽性細胞が歯髄幹細胞(DPSC)であると予想した。しかし、遺伝子改変マウスを用いた細胞系譜解析の結果、LepR陽性細胞はDPSCではないことが明らかになった。現在、他の方法を用いてDPSCの同定ならびに象牙芽細胞への分化メカニズムを探索している。すなわち、象牙芽細胞の細胞死によりDPSCから象牙芽細胞への分化が誘導されることを予想している。そこで、象牙芽細胞を特異的に枯渇する実験系を構築し、DPSCの同定ならびに象牙芽細胞への分化機構を解明する予定である。一方、本実験では骨粗鬆症治療薬である副甲状腺ホルモン(PTH)の象牙芽細胞分化に対する作用の解明を試みた。象牙芽細胞に先立ち、骨芽細胞に対する検討を行った。これまで我々は、レプチン受容体(LepR)陽性細胞を骨髄間葉系幹細胞(BM-MSC)として同定した。そこで、LepR-Cre/flox-stop-flox-tdTomato/タイプ1コラーゲン[Col1(2.3)]-GFPマウスにPTH(1-34)を間歇的に投与し、そのLepR陽性細胞に対する作用を調べた。その結果、PTH(1-34)はLepR陽性細胞のCol1陽性の成熟骨芽細胞への分化を促進することが明らかになった。一方、前述した通り、DPSCの同定が進んでいないため、PTHの象牙芽細胞に対する作用の検討は進んでいない。DPSCが明らかになり次第、解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
我々は歯髄組織におけるLepR陽性細胞の存在を確認しており、これがDPSCであると予想した。しかし、平成29年度の解析から、LepR陽性細胞はDPSCではないことが示された。そこで、平成30年度は、他のアプローチによりDPSCを同定し、その象牙芽細胞への分化メカニズムを明らかにする。以上の実験系に用いるマウスは既に作製済みである。したがって、本研究計画は順調に進んでいると思われる。一方、PTHの骨芽細胞に対する作用についての解析は予定通りに進み、論文報告済みである。上記解析法でDPSCが明らかになり次第、PTHの象牙芽細胞分化に対する作用を解析する予定である。以上より、PTHに関する研究計画もおおむね順調に進んでいる。
(1)象牙芽細胞の枯渇実験: 象牙芽細胞は死滅後に再生すると予想した。象牙芽細胞を特異的に枯渇する。象牙芽細胞特異的にCreを発現するマウスとして、タイプIコラーゲン[Col1(2.3)]-Creを使用する。(2) DPSCの同定:象牙芽細胞の枯渇後の再生を、組織とリアルタイムPCRで確認する。象牙芽細胞の観察は、Col1(2.3)-GFPマウスを使用する。以前DPSCは、細胞周期の亢進を介して象牙芽細胞に分化することが報告された。象牙芽細胞の枯渇後に、EdUを投与する。EdU陽性の歯髄間質細胞を確認し、その象牙芽細胞分化を調べる。(3)象牙芽細胞分化に必須な転写因子の探索:象牙芽細胞の再生過程に発現上昇する遺伝子を、RNAseqにより調べる。分化に必須な転写因子を同定する。パスウェイ解析を行い、象牙質シアロタンパク質(DSPP)の発現に関わる転写因子,その上流で機能するサイトカインを探索する。(4)象牙芽細胞の分化を決定する転写因子の過剰発現:象牙芽細胞の分化を決定する転写因子のcDNAクローンを購入し、アデノウイルスを作製する。Col1(2.3)-GFPマウス由来の歯髄細胞に強制発現する。Col1-GFPおよびDSPPの発現を指標に象牙芽細胞分化を評価し、分化決定因子を同定する。(5)象牙芽細胞の分化を決定するサイトカインの探索:上記(3)で同定した転写因子の上流に位置するサイトカインの機能を解析する。Col1(2.3)-GFPマウス由来の歯髄細胞の培養系にサイトカインを添加する。Col1-GFPおよびDSPPの発現上昇を指標に、その作用を検討する。(6) 歯髄組織のシングルセルレベルでのRNAseq解析:象牙芽細胞の枯渇後における歯髄間葉系細胞を回収し、シングルセルレベルでRNseq解析行う。そのデータを基に、DPSCを同定し、象牙芽細胞分化過程の詳細を明らかにする。
すべて 2017
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