研究課題
初年度は研究モデルの作製と骨痛の客観的、定量的評価法の確立に主要な努力を傾注した。またがん性骨痛誘発に直接関わる知覚神経の増生、ならびに興奮に対するがんの影響についても検討を加えた。1、骨痛評価動物モデルの作製とその解析マウス乳がん細胞株4T1を脛骨骨髄内に接種すると、その増大に伴って骨痛が誘発される動物モデルを樹立した。担がんマウスの骨痛は熱性痛覚過敏および機械的知覚過敏を測定することにより客観的、定量的評価を可能とした。4T1乳がん細胞は骨を破壊しながら増殖し、それに比例して骨痛が増加した。がん患者の骨痛と同様に、4T1担がんマウスの骨痛は破骨細胞特異的抑制剤ビスホスホネート投与により抑制され、本研究において作製された骨痛動物モデルはがん患者の骨痛を適切に反映することが示された。また骨内で増殖するがん細胞の周囲環境が酸性であることを見出した。2、がん増大に伴う骨内知覚神経の増生と興奮脛骨への4T1乳がん細胞の接種、増殖により骨内の知覚神経が増生することが免疫組織染色により示された。またin vitroにおいても4T1乳がん細胞との共培養により、知覚神経細胞の軸索伸展、ならびにCa2+の細胞内流入が促進された。したがってがん細胞は知覚神経細胞の分化、増生、興奮を促進する物質を産出することが示唆された。さらにウエスタンブロッティングを用いて脛骨担がんマウスの腰椎後根神経節では神経興奮の指標であるリン酸化ERK (pERK)とCREB (pCREB)が増加することを示した。これらの結果から、骨内でのがん増殖により知覚神経が増生、興奮し、骨痛が誘発されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、がんの骨転移とがん性骨痛との相互関連を分子細胞レベルで解析し、がんの骨での増大抑制と、がん性骨痛の緩和を一挙に可能とする治療法開発の手がかりを得ることが目的である。したがって、初年度にがんの骨内での増大と骨痛を並行して研究できる動物モデルの樹立したことは、本研究推進の大きな原動力となり、研究はおおむね順調に進展している。
平成30年度は、がん性疼痛の分子メカニズムの解明とそれに立脚する治療法の考案をめざす。また、がんにより興奮した知覚神経が腫瘍増殖因子を産生し、骨でのがんの増大、ならびに骨から肺への二次転移に影響を及ぼすかを検討する。1、がん細胞から産出される発痛物質の同定:初年度にがん細胞から知覚神経の分化、増生、興奮を促進する因子が産出されることが示されたので、発痛物質に的を絞って同定を試みる。骨内でがんの周囲環境が酸性であることから、有力な候補因子として、発痛物質の一つで、がん細胞が大量に産出するプロトンの関与を検討する。2、がん細胞由来発痛物質に対する知覚神経応答機構の解析:同定されたがん由来物質に対する受容体、あるいは応答機構が知覚神経細胞上に存在することを明らかにし、骨痛動物モデルにおいてその関与について検討する。3、興奮した知覚神経から産出される腫瘍増殖因子の同定:骨痛を示す担がんマウスの腰椎後根神経節、あるいはがん細胞と共培養したマウス腰椎後根神経節を用いてがん細胞の増殖に影響する分子の発現、産生を検討する。4、骨から内臓臓器への二次転移の検討:がん患者が骨転移自体で死亡することは稀であり、死亡の最大の原因は骨から内臓臓器への二次転移である。本研究で樹立された脛骨へのがん細胞接種モデルにおいて肺への二次転移が発生するかについて検討する。また興奮した知覚神経の肺への二次転移への関与についても検討する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
J Bone Miner Metab
巻: 36(3) ページ: 274-285
10.1007/s00774-017-0842-7.
Aging Cell
巻: 16(3) ページ: 551-563
10.1111/acel.12586
Cancer Res
巻: 77(6) ページ: 1283-1295
10.1158/0008-5472.CAN-15-3545
巻: 35(1) ページ: 6-19
10.1007/s00774-016-0810-7