研究課題
知覚神経に発現する酸感受性受容体TRPV1の活性化に続く知覚神経興奮ががん性骨痛誘発に関与することを平成29年度に明らかにした。その知見に基づき脛骨内乳がん担がんマウスにTRPV1選択的低分子拮抗剤SB366791、あるいは天然拮抗剤ヨードレシニフェラトキシン(I-RTX)を投与し、知覚神経興奮およびがん性骨痛を緩和すると、脛骨内の乳がん増大、ならびに脛骨から肺への二次転移も並行して抑制された。興奮した知覚神経において発現が増加する増殖因子遺伝子をマイクロアレイにより探索したところ、興奮した知覚神経ではHGFの遺伝子発現が増加することを見出した。免疫組織化学染色により乳がんが増大する脛骨内では、がん性骨痛の増加に一致して知覚神経上のHGF発現が上昇すること、ELISAにより脛骨骨髄内のHGFレベルが増加することが示された。また知覚神経によるHGF産生増加はSB366791,あるいはI-RTX投与により減少した。したがって知覚神経におけるHGF産生促進にはTRPV1の活性化が必要と考えられた。shRNAによりHGF受容体c-Metがノックダウンされた乳がん細胞を脛骨内に移植した場合、その増大、ならびに脛骨から肺への二次転移が低下した。さらにc-Met阻害低分子化合物クリゾチニブは乳がんの脛骨内での増大および脛骨から肺への二次転移を抑制し、担がんマウスの生存率を向上した。以上の成果より、骨内において知覚神経はがん性骨痛を惹き起こすと同時にHGFなどのがん増殖因子を分泌することによりがんの進展、転移を調節することが明らかとなり、がん患者に必発する疼痛の制御は、生物学的にがん悪性度を抑制し、その結果生存率改善にも寄与することが示唆された。また骨転移から内臓臓器への二次転移のメカニズムの一端が解明された。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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