研究課題/領域番号 |
17H04382
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 美加子 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (40271027)
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研究分担者 |
奥山 克史 朝日大学, 歯学部, 准教授 (00322818)
松田 康裕 北海道医療大学, 歯学部, 講師 (50431317)
山本 洋子 大阪大学, 歯学研究科, 招へい教員 (60448107)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 歯質 / 象牙質 / 耐酸性 / 根面う蝕 / 再石灰化 / コラーゲン / 架橋 |
研究実績の概要 |
近年、急激に増加している高齢者の根面う蝕を予防し、長期にマネジメントするために、超効率的な再石灰化促進、架橋形成促進、およびコラーゲン分解抑制の3つの観点から研究を推進している。 まず、積極的に象牙質の再石灰化を促す観点から、修復材にカルシウムを添加することを試みた結果、グラスアイオノマー充填セメントに含まれているストロンチウムの半分量をカルシウムに置換することで、酸性環境でも有意にミネラル喪失量および脱灰深さが小さくなることが、特性 X 線およびγ線によるPXIE/PEGE原子定量測定およびマイクロCT解析よりわかった。 次に、象牙質の主たる有機成分であるコラーゲンを強化することを目的として、UVA活性リボフラビン処理にて架橋形成を促進した。その結果、コラーゲンネットワークが強化されることが、酸性環境においてミネラルの喪失の防止に寄与し、根面象牙質の耐酸性向上に直接的に影響を及ぼすことを発見した。また、透過型電子顕微による形態観察、およびSDS-PAGEとウエスタンブロッティングにより、UVA活性リボフラビン処理にて酸性環境下においても架橋の形状が明らかに保持されていることを可視化した。 さらに、う蝕の脱灰によって露出するコラーゲンから放出される分解酵素によって、コラーゲン自体が劣化るすことで脱灰が加速することが知られている。このプロセスを抑制することを目的として、亜鉛を添加することでコラーゲン分解酵素の活性中心を偏位させ、分解を効果的に抑制することに成功した。PXIE/PEGE原子定量測定およびマイクロCT解析により、亜鉛の取り込みが象牙質の耐酸性向上に直接的に寄与していることを示すとともに、SDS-PAGEとウエスタンブロッティングにより亜鉛添加がコラーゲンの分解を顕著に抑制することを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、平成29年度に続いて、根面う蝕の進行抑制と長期マネジメントにおいて、ミネラルとコラーゲン両方からのアプローチが必須であることを示した。 まず、修復材料にカルシウムを添加することで、効率的に二次う蝕を抑制することが可能であることを特性 X 線およびγ線によるPXIE/PEGE原子定量測定にて示した。この成果は、根面う蝕抑制効果を示す修復材料の設計に必要とされる具体的な濃度分布基準を示しており、次世代型の機能的修復材の開発に直結する成果である。 次に、UVA活性リボフラビン処理による架橋形成が、根面う蝕防止に効果的であることを可視化して証明した。加えて、脱灰した象牙質が、UVA活性リボフラビン処理によって形成された架橋を足場とすることで効果的に再石灰化できたことは、新たな根面う蝕予防・治療法の提案につながる成果である。 さらに、亜鉛イオンにより象牙質中のコラーゲン分解酵素活性が低下することが、根面う蝕の予防と進行抑制の両方に功を奏することを発見し、そのメカニズムをSDS-PAGEにて示すことができたことも意義ある成果である。
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今後の研究の推進方策 |
う蝕罹患象牙質を想定し、脱灰象牙質がUVA活性リボフラビン処理によって、どの程度、再石灰化可能なのかを明らかにする。すなわち、「削らない虫歯治療」の限界を探索する。その際、事前の脱灰量とUV照射条件をコントロールすると同時に、フッ化物およびカルシウム素材との相乗効果をPXIE/PEGE原子定量測定と透過型電子顕微鏡観察にて評価する。 また、亜鉛イオンによるコラーゲン分解抑制については、その分子メカニズムを量子ビームにより原子レベルで分析を進める。その際、MMP2および9など種々のコラーゲン分解酵素について、それぞれの分解抑制効果を検討する。
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