研究課題/領域番号 |
17H04383
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今里 聡 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (80243244)
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研究分担者 |
佐々木 淳一 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (50530490)
松崎 典弥 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (00419467)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 再生歯学 / 歯髄再生療法 / 組織工学 / 生体材料学 / 細胞集合体 |
研究実績の概要 |
平成29年度には、歯髄幹細胞(DPSC)で構成される細胞集合体を血管内皮細胞へ分化誘導することによる集合体の形態や内部構造の変化を検討した。まず、細胞集合体を血管内皮細胞分化誘導培地(VE-dif)を用いて最大20日間の培養を行うと、細胞集合体の大きさは経時的に減少することが分かった。分化誘導した場合の大きさ変化を、通常の培養培地を用いて培養した集合体の大きさ変化と比較したところ、有意差を認めなかった。このことから、細胞集合体をVE-difで長期培養しても、集合体を構成するDPSCの細胞外基質産生は促進しないことが示唆された。次に、同様の試料のパラフィン包埋ブロックから薄切切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。その結果、細胞集合体の表面に密な細胞層が形成されていること、さらに集合体内部はエオジン好染の充実性の組織であることが分かった。同様の切片に対して血管内皮細胞マーカーであるCD31の免疫蛍光染色を行ったところ、培養5日目の細胞集合体外層においてCD31陽性の細胞が観察された。また、培養20日目の細胞集合体においては、中心部でHoechst33342に染色される生細胞が密に存在していること、さらに細胞集合体外層では、CD31陽性細胞からなる明瞭な管腔様構造が形成されていることが明らかとなった。このことは、細胞集合体をVE-difで培養することで、集合体外層のDPSCが血管内皮細胞へ分化し、さらに自己組織化することで管腔様構造を形成した結果であると考えられた。以上のことから、DPSCからなる細胞集合体をVE-difで培養することで血管網をもった歯髄様組織を創製できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に得られた結果から、歯髄幹細胞(DPSC)からなる細胞集合体を血管内皮細胞誘導培地(VE-dif)で長期培養できることが示された。さらに、VE-difで長期培養した集合体内部では、血管内皮細胞に分化したDPSCで構成される管腔様構造が形成されることを明らかにした。これらの結果は、DPSCを用いて作製した細胞集合体をVE-difで培養することで、血管網をもった歯髄様組織を創製できる可能性を示している。以上のことから本研究は、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
歯髄幹細胞(DPSC)の集合体を血管内皮細胞誘導培地で培養した場合の、血管系細胞への分化過程について検討する。さらに、動物実験を通じて管腔様構造を有するDPSC集合体の歯髄再生能を評価する。具体的には、以下の研究計画を実施する。 1.DPSCの血管系細胞への分化過程の検討:細胞集合体内におけるDPSCの血管系細胞への分化過程については、DPSCの表現型を評価する。具体的には、細胞集合体外層、あるいは内層を構成する細胞を取り出し、CXCL1やVEGFAなどの血管内皮細胞分化マーカー、および幹細胞マーカーであるNanogのmRNAの発現をリアルタイムPCRによって検討する。 2.DPSC集合体の歯髄再生能評価:管腔様構造を有する歯髄幹細胞集合体の歯髄再生用移植材としての有用性をin vivoで検討することを目的として、血管内皮細胞分化誘導を施した細胞集合体、あるいは分化誘導処理をしていない集合体をヒト抜去歯に填入し、免疫不全マウスの背部皮下に埋入する。埋入6週間後に試料を取り出し、脱灰処理後にパラフィン包埋薄切切片を作製、HE染色を行うことで根管内に形成された歯髄様組織の構造を観察する。また、HE染色の結果から、形成された歯髄様組織の体積を算出することで、細胞集合体の血管内皮細胞分化誘導が歯髄様組織のin vivo構築に与える影響を検討する。さらに、同様の薄切切片に対して、血管内皮細胞マーカーであるCD31、SMA、Factor VIIIの免疫蛍光染色を行うことで、根管内部におけるDPSC由来の血管網形成について検討する。これらの実験結果を総合的に検証することで、管腔様構造を有する細胞集合体の歯髄再生医療への有用性を評価する。
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