研究実績の概要 |
デンタルバイオフィルムを構成する細菌は口腔の主な疾患である齲蝕や歯周病の主病因と考えられている.また,口腔疾患と全身疾患との関係も注目されており,デンタルバイオフィルムを制御することは口腔及び全身の健康を維持するために重要である.現時点では,セルフケアを含めたデンタルバイオフィルムの物理的除去が最も効果が高いが,科学的根拠に基づいたバイオフィルムのコントロール法の確立は口腔保健の最重要課題のひとつである. 申請者らは,ヒトの口腔で経時的・定量的にデンタルバイオフィルムを形成・評価できるin situバイオフィルムモデルを新規開発し,そのモデルにおいて,デンタルバイオフィルムの日内変動の多面的な検討を行った.そのなかで、次世代シーケンサーを用いた解析により,睡眠時に形成されるバイオフィルムと覚醒時に形成されるバイオフィルムの細菌叢の異同を明らかにした.さらに睡眠群と覚醒群とに分け,共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)を用いて,バイオフィルムの三次元的解析を行うことで,そのバイオフィルム強度の差異を明らかとした. そこで,本年度はin situバイオフィルムモデル上で作成したデンタルバイオフィルム内の菌体外多糖の構造および性質の比較検討を行うため,睡眠群と覚醒群に分け,CLSMを用いた定量的3次元的解析を行った.これより,睡眠群の菌対外多糖の体積は,覚醒群と比較し,有意に小さいことがわかった.このことから,構成細菌の比率が変化することに加え,栄養供給が異なることより睡眠中において菌体外多糖の形成が減少したと考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,申請者らが開発したin situモデルにおいて,デンタルバイオフィルムの日内変動を多面的に検討し,より効果的なデンタルバイオフィルムのコントロール法を提示することである. 現段階までに, ,申請者らは次世代シーケンス解析技術を用いたバイオフィルム内の構成細菌を同定する方法を確立し,その16S rRNAシーケンス解析を順調に進めている. 本年度は睡眠時と覚醒時において,in situバイオフィルムモデルにてデンタルバイオフィルムを作製し、そルバイオフィルム内の菌体外多糖の構造および性質の比較を,共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)を用いた定量的3次元的解析にて行った.その成果を平成30年6月に東京都で行われた第61回春季歯周病学会学術大会および平成30年7月に栃木県で行われた第32回日本バイオフィルム学会学術大会にて口頭発表を行った. 睡眠時と覚醒時における構成細菌叢,バイオフィルム強度,菌体外多糖の構造および性質の違いが示されたことより,今後は睡眠によるバイオフィルムの病原性の比較解析を行う予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
今までデンタルバイオフィルムの日内変動を多面的に検討してきたが,今後は睡眠時と覚醒時のバイオフィルムの病原性の比較解析をすすめる.またオーラルバイオフィルム細菌叢の由来を探ることで,それぞれの形成メカニズムの関連性を明らかにし,科学的根拠に基づいたデンタルバイオフィルムのコントロール法の提示を目指す. まず,大阪大学歯学部学生および大阪大学歯学部附属病院の医員から,本研究の内容を説明し,同意を得られるボランティアを募集し,申請者が新規開発したin situバイオフィルムモデルを用いてデンタルバイオフィルムを作製し,そのバイオフィルム構造と病原性の解析を行う.また,オーラルバイオフィルムの細菌叢の由来を検討するため,口腔内の様々な部位(歯肉,硬口蓋,頬粘膜,舌,歯肉縁上プラーク,歯肉縁下プラーク)からサンプルを採取し,その細菌叢の解析を行う. 試料を回収後,リアルタイムPCRを用いて、それぞれの細菌の病原性因子(グリコシルトランスフェラーゼ,fim A, interpain A, fad A等)をターゲットとし,睡眠時と覚醒時の間でそれぞれの病原性がどのように変化するかの解析を行い,デンタルバイオフィルムのコントロールの最適な時期を提示する. さらに,オーラルバイオフィルムの細菌叢の由来を検討するため,口腔内の様々な部位から採取したサンプルを次世代シーケンサーを用いて,その細菌叢の解析を行う.以上の結果より,科学的根拠に基づいたデンタルバイオフィルムコントロール法を提示する.
|