本研究の目的は、日本と米国において認知機能の変化を自覚する乳がん患者に対し、がん患者用に開発した装置を用いた認知トレーニング(運動療法)を実施し、量的研究と質的研究を統合する混合研究法を用い効果の全体像を多面的に明らかにすることである。 広島大学においては、令和3年9月末日までに4人のリクルートを行い、目標症例数36人に達し、令和4年3月末までに介入、データ収集を完了した。36人中脱落者は1人であり、理由は別の疾患の治療であたった。熊本大学においてデータ収集を完了した6人を加え、41人に対する分析を行った。米国においては、カンザス大学にてデータ収集を完了した30人を対象に分析を行った。 量的データ分析の結果、日本における介入群20人(平均年齢:54.1歳)と対照群21人(平均年齢:51.6歳)の認知能力の変化に有意な差が確認され、認知トレーニングの有効性が示れた。米国においては、介入群15人(平均年齢:54.7歳)、対照群15人(平均年齢:55.3歳)のベースラインの認知機能障害に差があったものの、認知機能障害の変化に有意な差が確認され、認知トレーニングの有効性が示唆された。また、これらの結果から、日本と米国において認知トレーニングの効果が異なる可能性が示された。 質的データ分析の結果、介入群の研究参加者より、程度や内容は個々で異なるが認知機能の改善効果が述べられ、認知トレーニングの有用性が示唆された。また、認知トレーニングに対する評価について、概ね肯定的な意見が述べられたが、2つのゲーム(認知トレーニング)のうち1つが単調であり簡単であるという指摘があった。今後、患者の認知機能や好みに応じた認知トレーニングを選択できるよう、認知トレーニングの内容の充実を図ることが必要である。
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