研究課題/領域番号 |
17H04468
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中谷 久恵 広島大学, 医歯薬保健学研究科(保), 教授 (90280130)
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研究分担者 |
金藤 亜希子 広島大学, 医歯薬保健学研究科(保), 助教 (80432722)
津田 紫緒 東京医科歯科大学, 大学院保健衛生学研究科, 助教 (00402082)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 保健師 / 産業看護 / 家族支援 / 家族看護 / 産業保健師 / 労働者 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、産業看護での家族支援の実態と支援技術を明確にし、産業看護における家族支援教育プログラムを開発することである。初年度の2017年度には、まず、産業看護職の家族支援を記述した邦文6件を絞り込み、健康問題を持つ労働者への保健師の役割と家族支援の内容を明らかにした。支援は3カテゴリーに分類され、「労働と生活の不調和」では労働者は家族に健康問題を知られたくない場合や、家族は家庭生活が仕事にまで影響していることを知らないこともあり、「保健師の家族支援技術」では、保健師は家族を単位として介入する支援技術を有し、「保健師のプライマリケア」として仕事と家庭生活の両立を支援する役割を担い、会社と健康情報を共有して労働者をサポートしていた(October 2017 in Bangkok, 発表)。 次に、諸外国の産業保健師の活動の実態把握として、フィンランドのセイナヨキ市を中心に、現地での訪問調査を行った。雇用者は全労働者の健康と安全を確保するため、予防的な産業保健サービスの提供を義務付けられており、サービスのプロバイダーとして社内の産業保健サービス部門のほかに、自治体や民間事業などの社外機関に委託していた。サービスを提供する専門職には産業医、産業保健師、産業理学療法士があり、保健師は卒業後、800時間程度の卒後教育を受けることで産業保健師登録ができ、前述した様々な産業保健プロバイダーに所属し、職場に関連した傷病予防や、安全と健康の維持と風土の醸成を目的に、職場訪問・アセスメント、モニタリングや事後コンサルティングなどを行っていた。その手法やツールはフィンランド労働衛生研究所などで提供されるものを活用していた。健康診断やその事後措置では、一部の業種を除いて職場訪問のアセスメント結果や雇用者との契約の中で規定されていくとのことであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年には邦文献と海外訪問の調査により、産業保健師が行う家族への支援技術の抽出をめざした。文献は、2017年4月に医学中央雑誌(医中誌)とCiNiiのWebから期限を設けずに「産業保健」「家族」「保健師」の3単語でand検索した。医中誌では「家族」「産業保健」で1274件あり、「保健師」で絞り込むと29件となった。CiNiiでは「家族」and「 産業保健」で44件あり、「保健師」で絞り込むと0件となった。29件を入手したが、文献数が極端に少ないことから適格条件を緩めて保健師以外が筆頭であっても、家族を含む労働者への援助が保健師の立場から述べてあれば採択とし、6件を絞り込んだ。研究協力者の産業保健師3人からは分析結果への妥当性は得られたが、支援内容の実践項目の不足から支援技術の抽出までには至らなかった。 次に、訪問調査を行ったフィンランドの結果からは、わが国以上に福祉先進国である労働者をとりまく社会保障制度の充実やボランティア等の多様な産業保健サービスの提供により、保健師は労働者の家族支援にまで介入する必要がない体制が整備されていることが示唆された。例として、労働者のメンタルヘルス・依存症では、非政府組織(NGO)などによる様々なサポートツールが準備されており、労働者が自ら、または周囲の勧めにより資源を活用しながら課題解決に向け自立した取り組みを行っていた。さらに、教育や心理の臨床家など、医療職以外でのNGO職員等を含む多様な支援が、組織的な連携の下で行われていた。 以上の2つの調査結果から、2017年度研究からは産業保健師の具体的な家族支援の技術の抽出にまで至らなかった点が課題となった。フィンランドでは、「日本の保健師が家族に介入する必要性はどのような事例なのか?」と問われる面もあり、日本での2019年度の事例調査を先行して行う必要性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は3つの調査を行う。1つは、昨年度の邦文調査に対応して、国際文献による調査から、産業保健師が家族支援を行っている実態と支援技術の抽出を行い、国際学会で公表する(調査1)。次に、海外調査の二つ目の国として、アメリカにおける産業看護の家族支援での実態を把握し、家族支援の事例での健康課題や支援内容、それに関連する要因について、制度の背景をふまえて明らかにする(調査2)。フィンランドでの調査では、看護職が行う家族支援に労働者の雇用や年金などの社会保障制度や産業保健サービスの制度が影響していたことから、2018年度の海外調査においては、アメリカでの雇用制度について文献検索の事前調査を入念に行い、これらの情報をふまえて現地での情報収集を実施する。 さらに、産業保健師が家族支援を行う事例が諸外国でイメージされにくかったことから、2019年度に予定していた調査であった保健師を対象としたグループインタビューを2018年度に行うことを検討する。調査2との時期的な調整も必要となるため、研究の進捗状況を見極めながら調査の実施を見極める。研究目的は、産業保健師が行う家族支援の事例から、保健師の家族支援の役割と支援技術を明確にすることである(調査3)。
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