研究課題/領域番号 |
17H04477
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
安永 数明 富山大学, 大学院理工学研究部(都市デザイン学), 教授 (50421889)
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研究分担者 |
西澤 智明 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 室長 (10462491)
城岡 竜一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 大気海洋相互作用研究分野, 主任技術研究員 (20222432)
谷口 京子 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 技術スタッフ (30770573)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 大気エアロゾル / 気候変動 / 雲 |
研究実績の概要 |
本研究では,「降水活動が活発な熱帯西太平洋に位置するPalau共和国において大気エアロゾル粒子と降水粒子の長期的な連続観測を行い,衛星観測から得られたデータも組み合わせながら,インドネシアの森林火災を起源とする大気エアロゾル粒子の,熱帯海洋上における雲・降水の特性に与える影響について明らかにする」ことを目的としている。4年計画の2年目として,A.「昨年度に改修したPalau共和国のライダー装置を用いて,大気エアロゾル粒子と降水粒子の試験的な連続観測を実施した」,B.「昨年度に開発した雲のトラッキングアルゴリズムを用いて,Palau域の上層雲の変動特性について調べた」。 A.に関して,6月にPalau共和国を訪問して自動気象観測測器,降水粒子観測測器のメンテナンスを行うと共に,メインの観測測器であるライダーを用いた試験的な連続観測を実施した。特に,停電対策を行ったライダーに関しては,2回目の訪問の10月までに無人のまま約3ヶ月のデータ取得が確認できた。データを持ち帰って品質確認したところ,532nmの後方散乱強度と偏光解消度のノイズレベルが,上層で大きいことと,ラマン散乱の受光調整がうまくいっていないことが明らかになった。中下層に着目する限りは,深刻な問題にはならないことは確認したが,ノイズレベルの低減は今年度の課題である。 B.に関して,昨年度開発した「雲」(適当な閾値を下回る輝度温度の連続領域)のトラッキングアルゴリズムを開発し,Palau域の上層雲の変動特性について調べた。上層雲に関しては,比較的小さなシステム数に関しては日周期,中ぐらいのシステム数に関しては半日周期,大きなシステム数に関しては弱い日周期を示すことが明らかになった。 また上記2項に加えて,国際学会において近傍域で航空機を用いた国際観測を計画しているグループと意見交換をおこない,研究をアピールした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は4年間の観測実施計画を持ち,2年目終了までに「Palau 共和国の観測測器の改造と整備を行い,無人で安定に稼働できる測器(降水粒子観測測器,AWS)の連続観測を開始する」と共に,「Palau 共和国付近の雲の変動特性について衛星データを用いて整理する」という計画である。無人の長期連続観測により,インドネシアの乾季を含む西風卓越期(6月~10月)において,その大半をカバーする100日程度のデータは取得できたため観測部分に関しては計画通りに進んでいる(前項「研究実績の概要」に記載のライダー観測データのノイズレベルの低減については,次項「今後の研究の推進方策」参照)。 研究部分に関しても,「エアロゾル種別判別のアルゴリズム開発」はほぼ完了して,昨年度取得したデータの処理中である。まだ初期解析段階ではあるが,約100日間の観測データの中に4-5例(トータルで10日程度)のエアロゾル飛来事例を確認しており,解析作業も順調に進んでいる。また「雲のトラッキングアルゴリズムを用いた,熱帯海洋上における雲・降水の変動特性に関する研究」においても,上層雲に関して大きさによって異なる変動特性を明らかにし,研究成果を国内外の研究会・学会において発表しており,こちらも順調と考える。
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今後の研究の推進方策 |
前項のように,本研究課題は「おおむね順調に進展している」ことから,当初の計画通り下記の4項目に取り組んでいく。 (1)昨年度に引き続き,インドネシアの乾季を含む西風卓越期(6月~10月)において,降水粒子観測測器,AWS,多波長ライダーを含めた全観測を実施する。Palau共和国の訪問の際には,前項「研究実績の概要」に記載のライダー観測データのノイズレベルの低減に向けたアンプ装置の改修も計画している。ただし,少なくとも中下層に着目する限りは大きな問題とはならないことから,改修の状況に関わらずライダーによる無人観測は続ける。また降水粒子観測測器とAWSに関しては,その時点で得られた全データを回収する。 (2)得られた観測データを用いて大気エアロゾル粒子や降水粒子の物理特性の解析を続ける。特に昨年度の観測データに見られた,4-5例(トータルで10日程度)のエアロゾル飛来事例に着目する。ここでは,地上観測を用いた大気エアロゾル粒子や降水特性に関する解析に取り組むと共に,衛星観測データを統合して,インドネシアの森林火災を起源とする大気エアロゾル粒子の,熱帯海洋上における雲・降水の特性に与える影響について明らかにしていく予定である。 (3)昨年度の研究活動によって明らかになったPalau域の上層雲の変動特性について,投稿論文の形でまとめると共に,その他の研究成果も積極的に公表する。 (4)アメリカ海軍を中心とした研究グループでは,フィリピンの国内において,人為起源エアロゾルの性質,雲・降水への影響を明らかにすることを目的とした,航空機集中観測Camp2exを計画している。本研究課題で行うPalau域での観測は,西風期には彼らの観測の下流にあたるため,研究の相互協力は本研究課題を大きく発展させる可能性がある。Camp2exの研究者と相互協力の可能性について議論する予定である。
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