研究課題/領域番号 |
17H04479
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
武田 重信 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20334328)
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研究分担者 |
津旨 大輔 一般財団法人電力中央研究所, 環境科学研究所, 上席研究員 (10371494)
三角 和弘 一般財団法人電力中央研究所, 環境科学研究所, 主任研究員 (10462889)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 海洋科学 / 海洋酸性化 / 植物プランクトン / 北太平洋 / 鉄 |
研究実績の概要 |
米国海洋調査船による東部北太平洋亜寒帯域および亜熱帯域における研究航海が翌年度以降に延期されたことから、北海道大学練習船おしょろ丸の北洋航海(7月)において北太平洋亜寒帯の鉄制限海域である高栄養塩低クロロフィル域の植物プランクトン群集を採取し、代表的な珪藻2種を単離して培養株を作成した。天然海水および人工海水から作成した培地を用いて、培養株の基本的な増殖特性を把握するとともに、酸性化影響評価実験で行うバブリングが増殖に及ぼす影響について確認し、本実験を行う準備を整えた。今後、異なる二酸化炭素濃度の標準空気をバブリングすることで培地中のpHを変化させて、フミン様物質およびシデロフォアと錯形成させた有機錯体鉄の植物プランクトンによる利用能を評価する予定である。 2017年度の白鳳丸KH-17-3次研究航海で採取した海水試料について、鉄有機配位子の濃度および条件安定度定数を測定したところ、北太平洋亜寒帯域の西側に比べて東側の方の濃度がやや高くなっていた。また、条件安定度定数については東西の海域間で明瞭な違いは認められなかった。得られた結果から、海水中の溶存鉄の99%以上は現場に存在する天然有機鉄配位子と錯形成していることが示唆された。翌年度には、これらの現場海水を用いてpHを変化させた時の植物プランクトンによる鉄利用能の違いについても評価する。 鉄循環モデルの構築に向けて、鉄有機配位子の生成・消滅過程を陽に扱うことができる全球モデルCESM2-MARBLを電力中央研究所の大型計算機に導入した。モデルが正しく動作しているか確認するため、多数のアンサンブル計算を実施して、得られた結果が開発元で計算された結果と統計的に違いがないことを確認し、適切な計算結果が得られることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
米国海洋調査船による研究航海が翌年度以降に延期され、現場海域での船上培養実験の実施に遅れを生じている。これを補うために、北太平洋亜寒帯域の鉄制限海域から植物プランクトンを単離して、室内培養実験を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
北太平洋の鉄制限海域から単離した植物プランクトンを用いた培養実験を行い、海洋酸性化が、天然およびモデル有機錯体鉄の利用能に及ぼす影響の評価を進める。 鉄有機配位子の生成・消滅過程を組み込んだ全球モデルCESM2-MARBLの実行環境は順調に整ったことから、CESM2-MARBLを使用し、酸性化による錯形成の強さの変化を想定した、条件付き安定度定数を変えた感度実験を実施する。また鉄有機配位子の生成・消滅過程に関する論文の投稿を進める。 これまでの研究で得られた観測・実験データの解析を完了させるとともに、鉄有機配位子特性などに関するパラメータを見直したモデル計算結果に基づき、将来の海洋酸性化が北太平洋亜寒帯域における植物プランクトンの群集組成や生産性に及ぼす影響を総合的に予測評価する。
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