研究課題
微量栄養素である鉄が植物プランクトンによる生物生産の主要な制限要因として作用している北太平洋亜寒帯域から、表層海水と珪藻を採取して培養実験を行い、現場海水中の鉄有機配位子と錯形成した有機錯体鉄の植物プランクトンによる利用能が、海洋の酸性化、すなわち大気から海洋表層への二酸化炭素の溶解に伴うpHの低下によってどのような影響を受けるのかを調べた。黄砂などの大気降下物質や縁辺海からの鉄供給によって生物活動が比較的活発な西部北太平洋亜寒帯域の表層水を用いた実験では、pH低下によって有機錯体鉄が珪藻に利用され難くなることが示された。一方、鉄供給が少ない東部北太平洋亜寒帯域の表層水の場合、pH低下は珪藻による有機錯体鉄の利用をやや促進する可能性があるものの、大きな影響を及ぼさなかった。また、高濃度の有機配位子を含むカリフォルニア沿岸湧昇域の亜表層水では、pH低下による有機錯体鉄利用の促進が認められた。これらの結果は、将来の海洋酸性化に対する植物プランクトン応答が北太平洋の東西で異なる可能性を示すものである。続いて、海洋酸性化による有機錯体鉄利用能(安定度定数)の変化に対する基礎生産の応答を評価するため、培養実験で得られた知見等を参考にしながら、鉄循環を含む海洋モデル(CESM2-MARBL)を改良した。植物プランクトンの鉄制限項をFe’を用いて定式化したモデルを用いて安定度定数を変化させる数値実験を行ったところ、安定度定数が増加すると、植物プランクトンの鉄の利用能が下がり、鉄制限海域の基礎生産が減少した。一方、鉄制限を受けていない海域では、鉄制限海域の基礎生産が減少することにより窒素やリンなどの主要栄養塩の流入が増加し、基礎生産が増加した。このため、北太平洋においては、正味の影響として安定度定数の増加が基礎生産の増加をもたらすことが明らかになった。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
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