研究課題
近い将来、人間の早期死亡をもたらす最大の環境要因は大気汚染となり、その中でも特に粒子状物質(エアロゾル)によるものが最も深刻となることが予測されている。特に世界人口の約6割を占めるアジア地域において、人間の生活の質に直結する呼吸器系や免疫系に対する粒子状物質のリスクに係る信頼性の高い科学的知見の蓄積が求められている。本研究では、申請者が独自に開発したサイクロン式大気粒子状物質大量採取装置により得られた粒子中の化学分析と生体有害性評価実験を行い、インド・中国・日本における結果を相互に比較することで、各地域特有の粒子状物質による有害性発現メカニズム解明のキーポイントを明らかにすることを目的とする。平成29年度は、インドおよび中国における独自型サイクロンサンプラーの設置と粒子状物質の採取を進めた。インド国立物理学研究所(ニューデリー)に独自型サイクロンサンプラーを設置した。試運転を行ったところ、23時間で約90 mgの大気粒子を得ることができた。これは日本における平均的な採取量の約10倍に相当する。その後、2017年度中に合計6回の試料採取を行った。エアロゾル粒子採取量は54~278 mgであった。このことにより、インドにおいて今後も継続してサンプリングを行うことで、採取された粒子状物質の化学分析および生体有害性評価を行う基盤が整備できたと言える。次いで中国への装置の設置を行った。当初の計画では清華大学(北京)に設置する予定であったが、様々な事情により、設置場所を西安交通大学(西安)とした。これは近年の政治面の影響を受け、以前よりも中国側の対応が様々な面で予想以上に厳しいことを受けたものであり、設置場所の変更は予想の範囲内である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、インド・中国・日本に申請者が独自に開発したサイクロン式大気粒子状物質大量採取装置を設置し、それにより得られた粒子中の化学分析と生体有害性評価実験を行い結果を相互に比較することで、各地域特有の粒子状物質による有害性発現メカニズム解明のキーポイントを明らかにすることである。初年度についてはインド・中国・日本における装置の設置と継続的な稼働体制の構築が目標であった。日本とインドでは試料採取体制が整い、中国においても装置の搬入までは完了した。中国においては昨今の社会情勢を鑑みて慎重に進めたことも含めて想定の範囲内であり、現在までの達成度は、おおむね順調に進展している、と判断した。
今後は、中国における継続的なエアロゾル粒子採取体制の整備を進める。これと並行して、すでに粒子採取体制の構築が完了している日本およびインドにおいて採取されたエアロゾル粒子の化学分析および生体有害性評価実験を進める。具体的には、各国における粒子状物質の化学的特徴を明らかにするため、炭素成分、元素成分、水溶性イオン成分の分析を行う。炭素成分は熱分離光学補正法、元素成分はエネルギー分散型蛍光X線分析法、さらに水溶性イオン成分はイオンクロマトグラフィーをそれぞれ用いて分析する。これらの成分分析により、粒子状物質の質量のうち約9割を把握することができる。これと同時に、エアロゾル粒子中に存在し、生体有害性に影響があると考えられるβ-グルカンやエンドトキシンなどの生体由来物質の測定を試みる。得られた粒子状物質の生体有害性評価として、KIアッセイおよびDTTアッセイを行う。いずれの方法も、ヨウ化カリウム (KI) またはジチオスレイトール (DTT) の消費量を測定することによって粒子状物質の持つ酸化能を評価するものであり、有機過酸化物や遷移金属などの酸化剤に対して高い感度を有するが、同一サンプルに対するKIアッセイとDTTアッセイの結果が異なることが報告されている。具体的には、KIアッセイは光化学生成した有機化合物に高応答性を、またDTTアッセイは金属成分に高応答性を示すことから、結果の解析にあたってはこれらの特徴を踏まえてより多角的な粒子状物質の有害性評価を行う。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
Asian Journal of Atmospheric Environment
巻: 12 ページ: in press
10.5572/ajae.2018.12.1.078
http://www.applc.keio.ac.jp/~okuda/research/index.html