2020年度は、新型コロナ感染症拡大の影響から中国への渡航ができなかったため、これまでに得られたデータの解析を行い、3年間に渡る土壌の酸化還元電位の経時変化と重金属の化学形態の関係を明らかにした。また、江蘇省のカドミウム汚染農地土壌におけるコメの栽培に関して、当研究室で開発した土壌改良材(バークを原料に短期間発酵させたもの:FBWA)を添加した際のコメへのカドミウム移行抑制効果について、ポット試験を行い、FBWAの添加に伴うカドミウムの化学形態変化と取り込み量の関係を明らかにした。これらの結果をまとめてAnalytical Sciences誌に国際共著論文として発表した。 一方、国内のカドミウム汚染地帯として知られている群馬県安中市亜鉛精錬所周辺土壌について、本研究で構築した化学形態別分析が可能なオールインシェクション分析システムを用いてスペシエーションを行った。その結果、亜鉛精錬所からの距離と重金属の濃度には明らかな相関関係があり、亜鉛精錬所から排出された重金属が周辺土壌に高濃度で蓄積されていることが明らかとなった。その中でもカドミウムは、他の元素が溶出しにくい化学形態で土壌に存在しているのに対して、溶出しやすい化学形態で存在していることが明らかとなった。この研究成果をフローインジェクション分析の専門誌であるJournal of Flow Injection Analysisに発表した。 土壌中のカドミウムの化学形態と農作物への取り込み量の関係を明らかにするため、高エネルギー加速器研究機構の放射光X線を使って、土壌カドミウムのXAFS分析を試みた。その結果、土壌中のカドミウムは水和錯体の形態に近い状態で存在していると推定されたが、土壌カドミウムの濃度が低く、詳細な解析を行うことができなかった。これについては次年度以降再挑戦したいと考えている。
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