研究課題/領域番号 |
17H04504
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
錦田 愛子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (70451979)
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研究分担者 |
森井 裕一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00284935)
高岡 豊 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (10638711)
今井 宏平 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター中東研究グループ, 研究員 (70727130)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 移民 / 難民 / アラブ / 政治学 / 政策協調 / ドイツ / トルコ / 学際研究 |
研究実績の概要 |
本研究は、中東地域からヨーロッパ諸国へ移動した20世紀半ば以降のアラブ系移民/難民を対象に、彼らの移動と国際的な政策協調の相関関係を明らかにすることを目的とする。中東地域とヨーロッパ諸国の双方で調査を行ない、移動の実態と政策が互いに与える影響に着目するのが特色である。初年度は、研究分担者間での問題関心と専門知識を共有することを重視し、東京で7月、10月、12月、2月に計4回の研究会を開催した。また主要な研究対象地域であるドイツ、トルコおよび移民/難民の経由地であるレバノン、ギリシア、イタリアなどで現地調査を行った。 ドイツでは首都ベルリンで2週間の調査を行い、シリア難民の受け入れの受け入れ状況について調査した。その結果、彼らが当初は市の中心部にある大規模施設の跡地に収容されていたこと、昨今では施設の郊外移転が進んでいることが分かった。続いてポーランドのワルシャワでFRONTEX(EU国境管理局)本部を訪問し、地中海を中心とした移民/難民の救援をめぐる国際協調体制の現状について話を伺った。そこでは、2015年の難民危機を受けて移動を保護するための国際協調体制が拡充されていることが確認された。その後、ギリシアのレスボス島、イタリア南端のランペドゥーザ島においても、ドイツへ至る移民/難民の移動過程と現状について調査を行った。調査には難民の送り出し国であるリビア、スーダンの研究者も研究協力者として参加した。この他に今年度は、中東からの移民/難民の移動の比較参照例として、イランでも調査を行った。さらに長期化する難民問題とその地域社会での受容について考察を深めるため、パレスチナ/イスラエルにおける第三次中東戦争40周年の記念講演会を広島で開催した。これら多様なアプローチによる調査の結果、中東における移民/難民問題がどのように地域外に転嫁されているのか、その一端が明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は国内研究会を定期的に開催することができ、中東地域研究者とヨーロッパ政治・社会学研究者との間での知見の交換を予定以上に進めることができた。研究会では研究代表者・分担者の間での研究知見の交換だけでなく、近接地域のイタリアやギリシアが専門で同様に移民/難民問題に関心を抱く研究者も招き、豊富な知識と近年の状況についての情報を交換することができた。これらの交流を踏まえ、翌年度(2018年度)には日本国際政治学会にて共同報告の分科会を組織する予定である。 ドイツでの調査では2015年の難民危機後の受け入れ状況の変化を、当時から支援活動に関わる関係者から聞くことができた。また関連する研究の状況について、フンボルト大学移民統合研究所(BIM)の研究員から説明を受け、意見交換をすることができた。さらにドイツ在住のパレスチナ難民、シリア難民数名とも直接話をする機会があり、就業や言語習得をめぐる課題、ドイツ在住のアラブ・コミュニティ内での軋轢などについても知ることができた。調査は多方面において予定以上に前進しており、これらの成果は来年度以降の長期現地研究への大きな足掛かりとなる。 研究分担者今井宏平氏の協力により、ポーランドおよびギリシアではFRONTEX(EU国境管理局)の本部および支部を訪ね、移民/難民支援をめぐる国際協調体制の構築過程とその協力実施状況について、詳しく話を聞くことができた。レスボス島では実際にパトロールに出る難民救助艇に同乗することができ、国境管理と救援の状況を観察することができた。 さらに8月にはポーランドのクラクフで開催された国際学会(IUAES)に参加し、本共同研究メンバーのこれまでの調査経験と、本研究でも用いる方法論に基づき学会報告を行った。その他にも研究成果の報告・執筆は各自で既に進めており、予定以上のペースでの進展がみられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は今年度、本研究課題を基課題とする国際共同研究加速基金 (国際共同研究強化)でドイツに長期在外研究に出る予定である。滞在期間中にドイツ在住のアラブ系移民/難民(シリア、パレスチナ出身者を中心とする)について調査を行う。また研究分担者らとともに、トルコ国内のシリア難民が多く集まる地区でも現地調査を行う予定である。ドイツを中心とした国際政策協調については、代表者が拠点とするベルリンのフンボルト大学の研究者らとの間で国際ワークショップを開催することを計画している。昨年度までの段階で得られた研究成果については、11月に開催される日本国際政治学会の分科会および部会で報告を行うほか、年度内に開催される他の国際学会でも報告することを検討している。
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