研究課題/領域番号 |
17H04513
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
前野 芳正 藤田医科大学, 医学部, 准教授 (70131191)
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研究分担者 |
益田 岳 順天堂大学, その他部局等, 特任研究員 (00455916)
高木 秀和 愛知医科大学, 医学部, 講師 (90288522)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 熱帯熱マラリア / 薬剤耐性 / 分子生物学的疫学調査 / 住民 / 媒介蚊 |
研究実績の概要 |
1.カンボジア国境に接しているビンフォック省Bu Gia Map地区の地域保健センターにおいてpassive case detection (PCD)を2018年5月から11月に実施した。対象は調査対象地区に居住する住民で、発熱を主訴として受信し、RDT検査にてマラリア陽性を呈した29例を検討対象とした。マラリア原虫感染種の同定はnPCRに依った。その結果、混合感染例はなく、全ヒトマラリア原虫の単種感染例であった。29例中熱帯熱マラリア例が15例、三日熱マラリア例が14例であった。熱帯熱マラリア15例のPf K13-propeller遺伝子の塩基配列解析の行った結果、野生株感染が3例、変異株感染が12例であった。また野生株と変異株の混合感染例は認められなかった。検出された変異は全て非同義置換でC580Yの1種類だけであった。変異株感染が見つかった例はいずれも調査地内にある天然林から成る国立公園内での仕事と同所で寝る習慣が特徴として挙げられた。 2.ビンフォック省の過去の保存してあった熱帯熱マラリア感染ヒト血液のDNAサンプルのPf K13-propeller遺伝子の塩基配列解析を行った。2015年のサンプル11例では野生株感染が1例で、他は変異株の感染であった。変異を確認したのはこれまでアルテミシニン耐性との関連が報告されているP553L、V568GおよびC580Yが認められた。P553L+V568G、P553L+C580Yやwild+C580Yという混合感染例も認められた。また、2002年の同省のサンプルからは薬剤耐性を示唆されているK13-propeller遺伝子の変異は認められなかった。 3.カンボジア国境と接しているジアライ省およびダクノン省の熱帯熱マラリア患者の解析を行ったところ、ビンフォック省でのヒト血液解析結果と同様な結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の媒介蚊およびヒト血液を検討対象とした解析結果より、ビンフォック省Bu Gia Map地区におけるマラリア感染は森林地域に頻繁に立入、そこで睡眠を取るというヒトの行動に起因していることが推測された。これは前年度の調査地であるカンホア省Khanh Phu地区での調査結果と符合していた。また、ビンフォック省Bu Gia Map地区では他の先行報告にみられるよう私共の調査でもP553L、V568GおよびC580YというK13-propeller遺伝子の変異を認めているが、2018年の調査ではC580Yだけに収束されていた。この現象は他地区との交流が少ないカンホア省Khanh Phu地区でのK13-propeller遺伝子の変異と同様な要因があるのではという新しい知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
今回の調査、解析より、ベトナム南部地域においても熱帯熱マラリア原虫のアルテミシニン耐性との関連が示唆されているK13-propeller遺伝子内の変異が検出された。殊に、ベトナム・カンボジア国境付近の調査では従来と同様、K13-propeller遺伝子内の変異遺伝的多型を確認した。しかし、今回の調査においてK13-propeller遺伝子内の変異が多種から1種に収束され、従来の報告にはなかった新知見が見出された。この現象が起きている要因についてヒトの行動に起因していることが推測されたが究明ができず、今後の継続調査が必須と考えられこの問題点を中心に解析を進める。 問題点としては、マラリア感染例のクリニック受診率が低いことである。これは調査地におけるマラリア患者の多くは無症候者であることが考えられる。調査地においてはactive case detectionを行いたいが、住民の行動を考えると困難である。この問題を克服するため、現地保健センターとの協働を進め、検討対象例の多数化に働く。
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