研究課題/領域番号 |
17H04522
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉川 雅之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30313159)
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研究分担者 |
清水 政明 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (10314262)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 歴史言語学 / 記述言語学 / 野外調査 / 借用語 / 漢字 / 言語接触 / ベトナム東北部 / 広西壮族自治区 |
研究実績の概要 |
本年度は、吉川は過去2年間に収集した言語データに基づいて考察を進める一方で、国内外の図書館で古漢語音に関する史料の収集を行った。また、2019年8月から9月までと2020年1月から2月までの計2回、協力者1名をベトナム東北部と接する中国の広西チワン族自治区に派遣し、チワン語の語彙調査を行った。収集された語彙には多くの借用漢語音が含まれている。清水は2019年9月にベトナムのバッカン省にてタイー語の漢字音調査を行った。 本年度の主要な研究成果は以下のとおりである。日本漢字学会第2回研究大会(於東京大学駒場Iキャンパス)で2019年12月1日に「字体と造字法の創造力──漢字文化圏の周辺部より問う」と題するシンポジウムを催し、研究発表と討論を行った。これは従来相異なる学術分野・領域で別個に進められてきた漢字系文字(和製漢字、朝鮮国字、字喃、古壮字、西夏文字)を同一の平面上に置いて比較研究を行う試みであり、2013年度から2015年まで吉川と清水が主になって進めた科研費共同研究「変形漢字と変用漢字の類型研究」(課題番号25284076)で打ち出した構想を発展させた、学際的な企画である。発表者4名の中には清水と協力者1名が含まれ、コメンテーター2名の中には吉川が含まれている。字喃や古壮字といったベトナム東北部に隣接する地域の漢字系文字を、借用漢語音の史的変遷や地理的変異を解明する手段に応用するという意味でも、有益な企画となった。シンポジウムの他には、吉川は国内の市民講座で漢字音がどの様に変化してきたかについて講演を行った。清水は国内外で開催されたワークショップや学会で口頭発表を行い、また台湾で図書(共著)を著した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)研究代表者、研究分担者とも各自の調査対象言語について順調に調査や分析、考察を進めることができている。研究代表者と研究分担者が2020年3月にベトナム東北部で行うことを予定していた野外調査は、コロナウィルスによる感染症の全世界的な流行により見送った。その分の遅れは2020年度に行う野外調査の日数を増やすなど補充を行うことで取り戻す。 (2)シンポジウム「字体と造字法の創造力──漢字文化圏の周辺部より問う」の開催は大変有益であった。字喃や古壮字の字体には、その文字を使う集団の言語に於ける漢字音や漢語音が反映することが少なくないが、このシンポジウムの研究発表では、中越国境から程近い地区に分布する南部チワン語の古壮字に、漢語の一種である官話の音を反映する例が存在することが示された。今後は、官話の影響がベトナム東北部の諸言語にさえも及んでいる可能性に留意する必要が有る。また、このシンポジウムでは、漢字系文字の字体の分類法として、伝統的な漢字の枠組み「六書」に取って代わる、新たな枠組みを打ち立てる必要が有るとの認識が登壇者全員に共有された。字体研究を含む漢字研究全体の発展にも資する企画となったと言ってよい。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2020年度も研究期間開始時に立てた予定に従い、野外調査とデータ分析を進め、口頭発表や学術誌への論文投稿を行う。2020年3月にベトナム東北部で行うことを予定していた野外調査をコロナウィルスによる感染症の全世界的な流行により見送ったが、その分は2020年度に行う野外調査の日数を増やすなどして補充する。 また、海外から研究者数名を招聘し、ベトナム東北部の諸言語に見られる借用漢語音についてのシンポジウムを開催し、国際的な学術交流を行う予定である。
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