研究課題/領域番号 |
17H04526
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研究機関 | 公益財団法人古代学協会 |
研究代表者 |
田中 俊明 公益財団法人古代学協会, その他部局等, 客員研究員 (50183067)
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研究分担者 |
徐 光輝 龍谷大学, 国際学部, 教授 (70278498)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中国東北フロンティア / 古代朝鮮 / 玄菟郡 / 楽浪郡 / 遼東郡 / 高句麗 / 夫余 |
研究実績の概要 |
2018年度は、8月に韓国、10月に中国の調査をした。韓国は単独で、百済前期の王都の状況を確認し、国立中央博物館・漢城百済博物館・国立晋州博物館・国立大邱博物館などの遺物調査をした。中国は、前年度の厳寒な時期の調査が効率的ではなかったため、10月に変更した。撫順・新賓・通化・集安・鉄嶺など、遼寧省の東南部から吉林省の西南部にかけての地域で、遼東郡・玄菟郡の関連施設および、高句麗の前期・中期王都を対象とした。わたしと研究協力者の東潮と現地協力者の肖景全・周永向が、全日程をともにした。連携の井上直樹は前半日程のみ、また後半は韓国の国立弥勒寺遺物展示館館長の李炳鎬が同行した。李館長は百済史の専門であるが、高句麗前期・中期王都を調査して、高句麗と深い関わりがある百済との関係を改めて考えてもらうことを意図した。分担の徐光輝は直前の病気によって参加できず、別の機会に長春・北京で遺物調査をおこなった。踏査対象は、遼東郡・玄菟郡関連で桓仁下古城子古城、東古城子遺跡、通化赤柏松古城、永陵鎮古城・邱台遺跡、瀋陽青粧子古城、東洲小甲邦古城、撫順労働公園古城、点々とする烽火台については新賓四道溝烽火台・木奇東嶺烽火台・新民烽火台・天橋嶺烽火台を調査した。また、高句麗遺跡としては、撫順高爾山城・桓仁五女山城・桓仁上古城子墓群・望江楼墓群・望波嶺関隘・集安(西大塚・集安高句麗碑発見地点・長川一号墳・牟頭婁塚・将軍塚・広開土王碑・太王陵・東台子遺跡周辺・五塊墳一帯・国内城・丸都山城・山城下墓群・山城下磚厰古墳・千秋塚)、遺物の調査は、鉄嶺市博物館・遼寧省博物館・桓仁博物館・集安博物館で行い、未公開の桓仁民俗博物館も参観した。これで残していた遼寧省東部・吉林省西南部の遼東郡・玄菟郡関連遺跡は、ほぼ調査することができ、また高句麗の前期・中期遺跡についても、かなり多く見ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はそもそも古代における中国諸王朝(戦国燕~後燕)の東北フロンティア開発の先端基地であった遼東郡・玄菟郡・楽浪郡の位置と変遷を、現地調査を踏まえて詳細に検討するものである。そしてそうした中国王朝の東北フロンティア開発によって興起したといえる高句麗・夫余などのいわゆる「東夷」諸国の状況を把握することである。 2018年度までの調査によって、遼東郡・玄菟郡関連遺跡についてはほぼ網羅的に確認した。残るのは新賓の白旗堡古城くらいである。その意味では順調に調査ができている。調査成果と、中国におけるこれまでの調査・研究状況を総合・整理する必要がある。2019年度に予定している夫余地域は、そうした作業をこれまで含めて来なかったので、特にはこの夫余に関する既往の諸調査・研究を集成して整理したい。 楽浪郡については、韓国におよぶ部分は調査を進めてきたが、問題は、郡治のあった平壌および、その周辺の地域である。つまり北朝鮮にある関連遺跡である。これは政治情勢と関わって、実現可否を見据える必要があるが、現状では困難である。南北会談も滞っており、それに従って再開が予定されていた、韓国国立文化財研究所による北朝鮮の調査(中断しているのは、高麗時代の王都開城の宮殿のあった満月台の調査で、新たな企画もあった)がさらに延期になっている。この状況で、北朝鮮での調査はあまり期待できない。本研究の終了までに現地踏査が実現できるかどうか、不透明である。近年、北朝鮮で調査を進めている延辺大学の鄭京日教授から、2018年8月に招請を受けて、吉林省延吉を訪れ、話す機会を得た。現地の状況もいくらか知ることができた。 最終年度のメンバー合同での討論会に向けて、いったんの論文の提出を求めている。すでに受領したものもあり、その不十分な点について指摘をして、最終稿にむけて修正や増補をお願いしているところである。
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今後の研究の推進方策 |
中国諸王朝(戦国燕~後燕)の東北フロンティア開発をあとづけるためには、遼東郡・玄菟郡・楽浪郡の具体的な変遷を知らなければならないが、それには各県城の位置・立地・規模・構造・遺物の年代等の追究が不可欠になる。さらに県城と他の県城とを結ぶ交通路についても、あわせて知る必要がある。 その点を意識してこれまで調査を進めてきたが、今後は、当初の計画に従って、中国東北部および韓国での調査を継続する。中国においては、残る新賓白旗堡古城および、遼東郡・玄菟郡の境域外の状況の確認と、特に夫余など在地勢力の遺跡を踏査したい。昨年度にも予定をしていたが、実施できなかったので今年は実現させたい。夫余については、まだ十分に明らかになっておらず、中心地である吉林省吉林市以外のどこまで広がっていたか、そうした地域において、確実に夫余遺跡と言えるものがでこであるのかなどの確認を進める必要がある。例えば、遼寧省西豊県の西岔溝遺跡は、当初より匈奴・烏桓・鮮卑・夫余説があり、近年でも、帰一していない。そのような帰属のあいまいな遺跡について、位置・立地などを確認し、遺物も精査し、総合的に検討を加える必要がある。これについては、中国正史の東夷伝を中心とする関連史料の精密な検討が必要である。『魏志』東夷伝の前半部分(夫余・高句麗など)は、以前に公刊したが、韓伝・倭人伝についても詳細な訳注を作成する。これまで進めてきた内容を、さらに精査して、『魏志』東夷伝訳注として刊行する予定である(吉川弘文館から刊行が決定済み)。 該当地域の平地土城は耕地化・工場化など開発のためにしだいに消滅しつつあり、早急な調査が必要であり、それを中心にしつつ、並行して文献・考古による追究を進めているし、今後も続ける方針である。
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