アンデス文明の形成過程の始まりは神殿の登場にあるとされ、とくに土器の導入に先立つ「先土器神殿」の重要性が指摘されているが、その編年研究が遅れている点、「神殿が成立する要件」が実証的に説明されていない点が分野における課題である。応募者は2016年度までに、ペルー北部カハマルカ県のモスキート遺跡の発掘から、先土器神殿の至近で灌漑農耕が行われていた証拠を得た。そして「神殿間の遠隔地交易を荷駄獣リャマが支える」「リャマが肥料をもたらす」「耕作地からの除石が神殿の建材になる」という相互関係に着目し、文明形成の画期たる「農村としての神殿」の具体像を解明するべく本研究を計画した。 平成29年度はボーリング調査で地下に埋もれた灌漑用水路の流路を解明し、30年度はドローン測量で地形図を作成した。それをもとに令和元年度に発掘調査を計画するも不測の事故で脚を故障し、令和2~3年度の新型コロナウイルス感染症流行、4年度のペルー政情悪化の影響で渡航がかなわなかった。この間に方針を見直し、古い航空写真を入手・三次元解析して古環境研究の精度を上げ、それまでの調査遺跡に関する年代測定を新規に実施するなど、発掘は出来ないものの既存のデータの確度を上げることに務めた。令和4年度は現地協力者と連携してこれまでの測量データを整理し、同じく研究代表者を務める2課題(15H00713:ワヌコ盆地の編年研究、19H05732:神殿形成の景観研究)の成果と合わせて論考を発表した。またリャマ飼養をめぐる論点は期間内に現地調査する機会を得られなかったが、他の研究者と意見交換を重ねて継続(21H00647、23H00023)する体制を整えた。
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