研究課題/領域番号 |
17H04536
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
加賀美 雅弘 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (60185709)
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研究分担者 |
森 明子 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 教授 (00202359)
薩摩 秀登 明治大学, 経営学部, 専任教授 (70211274)
飯嶋 曜子 明治大学, 政治経済学部, 専任准教授 (20453433)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エスニック集団 / 自助組織 / 文化協会 / 難民 / 国立公園 / 国境地域政策 |
研究実績の概要 |
オーストリアの国境地域における多様なエスニック集団の動向を地域変化とのかかわりを踏まえて検討するため,平成29年度は4人が分担するフィールドそれぞれにおけるエスニック集団をめぐる研究課題の確認を行った. 加賀美は,ハンガリー国境地域としてブルゲンラント州におけるエスニック集団としてハンガリー系,クロアチア系,ロマの教育および文化活動に関する調査を二言語学校や自助団体において行った.その結果,それぞれの集団が自身の文化の継承に積極的に取り組む一方で,ロマの貧困や差別といった社会的課題が深刻であり,その実態の解明が必要であることを確認した. 森は,ケルンテン州南東の小都市で現地調査を行った.ドイツ語とスロヴェニア語をめぐって歴史的に厳しい緊張関係を経験してきた地区であるが,近年,その緊張関係が緩和傾向にあること,その際,文化活動が顕著な役割を果たしていることが明らかになった.また,EUによる難民受け入れの一端を担ってアジール申請者を受け入れている宿泊施設において,その受け入れの状況を確認した. 薩摩は,オーストリア・チェコ国境地域における第二次世界大戦後のエスニック集団の移動をテーマにして,チェコ共和国ズノイモ市の市立図書館において国境地域におけるこれまでの政治的および社会的状況と,チェコ側のポディイー国立公園およびオーストリア側のタヤタール国立公園に関する資料・文献調査を行い,国境越えを強制された人々の歴史的経緯を確認した. 飯嶋は,スロヴェニアおよびスロヴァキアとの国境地域の現地調査を実施し,近年の移民・難民の大量流入がもたらした地域への影響,当該国境地域の越境的性格について文献・資料探索を行った.また,スロヴァキア側の国境地域での少数民族の問題を見出すことができたほか,越境性に関するEUの国境地域政策INTERREGによる支援の枠組など,新たな知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の成果は,当初予想していたよりも良好と判断される. 加賀美の調査では,EUの国境地域連携事業に対応したツーリズム振興事業が進む中,イベントや文化事業によるエスニック集団の伝統文化の継承が積極的に進められていることが明らかにされた.しかしその一方で,国境開放に伴ってオーストリア国内の労働市場に外国人が参入し,ロマが労働市場からはみ出され,また行政によるロマ居住の不可視化が進められるなど,ロマを取り巻く深刻な問題を重視してゆく必要性を確認した. 森の調査では,難民受け入れについては,EUの方針およびオーストリア政府の政権交代に伴って施策に変化が起こっており,滞在者は明らかに減少傾向にある点を確認できた.今後の展開は予想しにくいが,人間関係を構築したところであるので,アジール申請者がいる限り,彼らの直接的な面接調査をしたいと考えている.多言語主義の文化活動については,学校や教師の存在,ローカルな文化協会に焦点をあてる方針を定めた. 薩摩の調査では,チェコ・オーストリア国境地域の住民が歴史的に密接な関係を維持してきたこと,それが第二次世界大戦後のドイツ人追放までの20世紀前半に分断され,冷戦期には交流はほぼ途絶えたこと,20世紀末になってディイェ(タヤ)川流域の環境保全が両地域の協力推進を促したことが明らかになった.近年,国境を越えて設定された国立公園による国境地域の変化と,直面する課題の解明を検討する必要があることを確認した. 飯嶋の調査では,国境地域の変化を検討する上で,スロヴァキア側の国境地域において,かつてのカルパチア・ドイツ人の居住の歴史と地域文化の保護・再生や地域主義の問題を解明することの必要性を確認した.特に,彼らの文化や地域性を再評価する動きと,当該地域の発展,さらにはオーストリアとの国境地域連携との関係について検討することの重要性を確認した.
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今後の研究の推進方策 |
加賀美の研究では,ブルゲンラントロマ協会での聞取りによって,ロマの学校教育や就業など生活面での課題をあぶり出す必要がある.ロマを対象にした聞取りには,人間関係を固めておくことが必要であり,そのための準備を進める予定である.ブルゲンラント州におけるツーリズム振興事業におけるエスニック集団の文化活動の動向については,イベントや博物館,モニュメントの整備状況を把握し,自助団体での聞き取り調査によって明らかにできると考えている. 森の研究では,アジール申請者については、彼らがいつまで滞在しているかによって、調査の内容は大きく左右される。これは成り行きを見守るほかない。文化活動については、学校や文化協会を主要な舞台とする活動のほか、行政も関わって、多文化・多言語の地域としての歴史教育や文化教育と観光資源の開発を含めて、知識人やエージェントをまきこんだプロジェクトが生まれている。2018年度の調査は、この動きを中心に追跡していく予定である。 薩摩の研究では,チェコ・オーストリア国境地域においては、近年の移民・難民の移動は社会的問題にはなっていないことを踏まえて,前世紀に生じた分断を乗り越えつつ、両地域の住民がどのような分野で協力関係を築いていくかに注目する.ポディイー/タヤタール国立公園の過去約10年間の実績についてさらに現地で調査するとともに、国境線沿いの他の地域における事例についても,現地調査を通じて課題や取り組みの状況を明らかにしてゆく予定である. 飯嶋の研究では,スロヴァキアとの国境地域を調査対象地域とし,カルパチア・ドイツ人がいかなる民族文化や地域性を有し,維持しようとしているのか,いかなる地域発展戦略によってオーストリア側の国境地域との連携をめざすのかを明らかにする予定である.その際,地域文化を活かした観光分野での取り組みや国境を越えた連携に焦点を当ててゆく.
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