研究課題/領域番号 |
17H04545
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
穴沢 眞 小樽商科大学, 商学部, 教授 (40192984)
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研究分担者 |
熊谷 聡 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 開発研究センター 経済地理研究グループ, 研究グループ長 (20450504)
藤田 麻衣 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター東南アジアII研究グループ, 研究グループ長 (50450507)
TRAN VAN.THO 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (70227669)
清水 一史 九州大学, 経済学研究院, 教授 (80271625)
吉野 文雄 拓殖大学, 国際学部, 教授 (90220706)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 経済統合 / マレーシア / ベトナム / 経済発展 / 工業化 / 国営企業 / 多国籍企業 / 中小企業振興 |
研究実績の概要 |
本研究は地域経済統合が進むなか、積極的にこれに参加しているアジアの発展途上国からマレーシアとベトナムを取り上げ、両国の発展段階の違いが地域経済統合に伴う経済活動の自由化や経済発展プロセスに与える影響を詳細な現地調査により明らかにすることを目的としている。 昨年度も当初の計画通り、マレーシア、ベトナムにおいて政府系企業及び国営企業の改革、製造業において重要な位置を占める自動車産業と電機・電子産業を中心とした工業化の方向生そして地場の中小企業振興政策を取り上げ、政府機関、大学や研究所などの研究機関、外資系及び地場企業でのヒアリングを実施した。 マレーシア、ベトナムともTPP11のもと、政府系企業や国営企業の改革が急務となっているが、いち早く民営化を打ち出したマレーシアにおいて、より着実な改革がみられる。経済体制の違いもあり、ベトナムにおいては依然として主要産業において政府の力が強く働いているが、外圧や域内での競争圧力から徐々にではあるが、改革が意識されつつある。 昨年度は外資系企業の中でも大手には含まれない部品メーカーや地場企業でのヒアリングをより多く行い、そこからは経営資源が限られる中小企業の戦略が観察された。特にマレーシアにおいては低賃金労働力が払底している状況にあり、かつ、外国人労働者の確保が難しくなるなか、外資系企業では生産工程の高度化、そして地場企業では海外進出などの方向生が観察された。 マレーシアを追いかける側にあるベトナムでは引き続き、労働集約的な産業に比較優位を有するものの、外資系企業による技術移転、地場中小企業の振興など、マレーシアが経験した工業化のプロセスにおける問題点が顕在化しつつある。国家間の学習効果についての検証もキャッチアップに際しての重要なファクターとなることが改めて浮き彫りになったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は現地での詳細なヒアリングに主眼を置いたものである。昨年度もマレーシア、ベトナム両国において精力的にヒアリングを実施した。ヒアリングの対象は政府機関、大学などの研究機関及び電機・電子関連、自動車関連のセットメーカー、外資系及び地場の部品メーカーである。マレーシアにおけるヒアリング数は一昨年の段階ですでに予定数を上回っており、昨年度、当初の目標としていた数のヒアリングを終えることが出来た。ベトナムにおいては一昨年度、目標数に若干届かなかったものの、昨年度は特に企業でのヒアリング数が伸び、こちらも当初の目標としていたヒアリング数にほぼ達している。3年計画のプロジェクト遂行中の2年目においてほぼ目標とするヒアリング数をクリアしており、予定通り、最終年度においては補足的なヒアリングを行い、より精度の高い実証研究とするための準備が出来上がったといえる。 ヒアリング数も重要であるが、それ以上にヒアリングの内容が重視されるべきであり、現地協力者との連携による共同でのヒアリングの実施は日本側の研究者のみならず、マレーシア、ベトナムの研究者との共通認識の醸成や現地側の視点の導入という副産物を生んでおり、共同研究の実を結びつつあるといえる。 現地調査に付随して、ヒアリングの内容を補完する日本では入手が難しい文献や統計資料なども精力的に収集しており、これらの文献、資料の読み込みもヒアリングとあわせて行っている。 また、一昨年に引き続き、昨年度も小樽商科大学においてマレーシア側の研究者を招へいし、ワークショップを開催した。ワークショップには学内関係者や大学院生も参加し、活発な議論がなされた。ワークショップの開催も当初の計画に従って行っており、研究成果の社会還元の一部となるものである。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度も引き続き、マレーシアとベトナムを対象として下記の①から③について現地調査を実施する。最終的にこれらについて両国の比較検討を行い、発展段階の相違に起因する要因を抽出し、あわせて文献研究を行い理論面での進展をはかる予定である。両国の比較から特にベトナムでのキャッチアップにおける学習効果などについてより詳細に検討を加える。最終年度に予定されている具体的な研究内容は以下の通りである。 ①地域経済統合化と国有企業改革:マレーシアで先行して実施された国有企業の民営化などを参考とし、ベトナムにおける国有企業改革の動向を詳細に検討する。理論面ではレンロ・シーキングや制度能力などを参照しつつ、特にTPP11やAEC(ASEAN経済共同体)という地域経済統合が国有企業改革に与える影響などについて両国の大学関係者と議論を深める。 ②外資主導の工業化と多国籍企業による機能配置:両国の工業化、特に輸出指向的な電機・電子産業の発展は多国籍企業に大きく依存しており、彼らの戦略が工業化の方向生にも大きな影響を与えている。国内市場指向的な自動車産業においても出資比率の制限は行うものの、技術面では両国とも多国籍企業に依存している。これら多国籍企業の両国への機能配置はサプライヤーとなる外資系企業や地場企業への経営資源の移転にもかかわるものである。追加的なヒアリングにより、これらについての知見を深める。 ③地場中小企業振興政策:マレーシアで実施されている大企業による地場中小企業支援政策についてはすでにヒアリングを行っているが、追加的なヒアリングを行い、政策面での改善など内容をアップデートする。同様にベトナムにおいても中小企業振興政策について引き続き関係する省庁や大学、外資系企業においてヒアリングを行い、マレーシアとの政策的な対比を試みる。
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