研究実績の概要 |
都市空間の変化は,どのような過程を経てコントロールされているのか。それは日本とアメリカでどのように異なるのか。これが本研究を主導する問いである。その問いに解答するため,日本では小樽運河保存運動を,アメリカではセントルイス市の再開発問題で生起した景観保存運動を取り上げて分析する。この2つの事例は,どちらも30年以上の長期にわたって保存論争が続いたもので,事例の中に都市問題の変化・変遷が凝縮されている希有なものである。 2020年度が最終年度であったが,新型コロナウイルス禍のため,繰り越した2021年度が最終年度となった。その研究実績は,以下の通りである。 日本の小樽の事例については,単著『町並み保存運動の論理と帰結:小樽運河問題の社会学的分析』(東京大学出版会,2018年)を刊行したが,その英語版Why Place Matters(Springer, 2021年6月)を刊行することができたのは,大きな成果であった。刊行後,ニューヨークのコロンビア大学から招待講演の依頼があり,2022年3月に講演,同4月にポッドキャスト収録をそれぞれ行った。 セントルイスの事例に関しては先行研究が見当たらないことに鑑み,一貫して基礎的な事実関係の究明に重点を置いてきた。コロナ禍のため,2021年度は現地調査を実施することが叶わなかったため,事例初期(1960-1970年代)の展開過程を示す一次資料の整理・分析を行った。対象は,ミズーリ歴史協会(Missouri Historical Society)とミズーリ州立歴史協会(State Historical Society of Missouri)所蔵の資料である。その結果,この事例が契機となって,連邦政府所有の公共建築の再利用上の障壁が認識されるようになったこと,その解決のため,ふたつの連邦法が生み出されたことが確認できた。
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