研究課題/領域番号 |
17H04578
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
冨川 喜弘 国立極地研究所, 研究教育系, 准教授 (20435499)
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研究分担者 |
佐藤 薫 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90251496)
平沢 尚彦 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (10270422)
高麗 正史 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80733550)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 対流圏界面 / 水蒸気 / 南極 |
研究実績の概要 |
南極の対流圏界面領域(高度10km付近)は、温室効果気体の増加で温暖化する対流圏(高度0~10km)と、オゾンホールの拡大・縮小で寒冷化・温暖化する成層圏(高度10~50km)に挟まれている。この領域では温度や化学成分(オゾン、水蒸気など)の分布が高度とともに急激に変化するため、その研究には高鉛直分解能なデータが必要とされるが、気象条件が過酷で物資や人員の輸送も制限される南極域ではこれまで十分な観測が行われてこなかった。本研究では、南極昭和基地において水蒸気ゾンデを用いた集中観測を実施し、そのデータと人工衛星や気象再解析データを組みあわせ、南極対流圏界面近傍の鉛直微細構造の生成メカニズムと対流圏界面を横切る物質交換過程を明らかにする。 1.南極での水蒸気ゾンデ観測 平成29年11月出発の第59次南極観測隊越冬期間中に、南極昭和基地において計14回(秋:1回、冬:6回、春:1回、夏:6回)の水蒸気ゾンデ観測を予定していた。秋、冬、春については予定通り観測を実施したが、夏については観測を実施する隊員の他業務による負荷が大きかったことと、想定以上の悪天が続いたことにより、予定していた観測のうち1回しか実施することができなかった。 2.上部対流圏湿潤化プロセスの研究 南極昭和基地における冬季の水蒸気ゾンデ集中観測により抽出された上部対流圏湿潤化イベントについて、流跡線解析と気象再解析データを用いた検証により、海洋上で発達した低気圧に伴う上昇流と極向きの流れにより、下層の湿った大気が輸送されてきたことが明らかとなった。現在、投稿論文化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画では、平成30年度に南極昭和基地での大規模な水蒸気ゾンデ集中観測を実施し、そのデータと人工衛星や気象再解析データを組みあわせ、南極対流圏界面近傍の鉛直微細構造の生成メカニズムと対流圏界面を横切る物質交換過程を明らかにすることを目的としていた。しかし、南極で活動する隊員に対する他業務の負荷が大きかったことと、悪天が続いたことにより、夏季に予定していた水蒸気ゾンデ集中観測6回のうち、1回しか実施することができず、通年のデータ取得は予定の6割程度にとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度の研究実施計画は以下の通りである。 ①南極昭和基地での集中観測で得られた気温、水蒸気、オゾンのデータをもとに、対流圏界面逆転層(TIL)消滅期、発達期、最盛期の昭和基地上空のTILの鉛直構造や、安定度と水蒸気・オゾン分布の関係、それらの時間変化を記述する。その際、Tomikawa et al. [2009]で用いたオゾン濃度で決定する対流圏界面を基準とした座標系を使用することで、対流圏界面近傍の温度構造と化学成分の濃度変化を明瞭に捉えられるようにする。さらに、南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)で得られた3次元風速データを用いて、TILの形成・消滅と風速場との関係、あるいは鉛直風による断熱加熱との関係を調べ、TILの時間発展に風速場が果たす役割を明らかにする。その結果を、3次元残差循環と衛星観測のデータと比較し、検証する。 ②これまでに行った南極昭和基地での水蒸気ゾンデ観測データを基に、南極域の衛星水蒸気観測データの評価を行う。これは南極対流圏界面領域では初めての評価となる。 ③それまでの研究成果をもとに、南極対流圏界面領域における対流圏界面逆転層の形成・消滅メカニズムと成層圏-対流圏大気交換について取りまとめ、国内外の学会や論文誌で発表する。また、本研究計画は南極昭和基地1点での集中同時観測を基礎にしているが、将来的には対流圏界面逆転層の構造や成層圏-対流圏大気交換の東西非一様性や緯度依存性を詳細に議論するため、南極上空を長期間(数十日)にわたって周回可能な気球を用いた南極対流圏界面領域の水平構造の観測とそれに基づく研究について検討を開始する。
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