研究課題/領域番号 |
17H04584
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大津 宏康 京都大学, 工学研究科, 教授 (40293881)
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研究分担者 |
立川 康人 京都大学, 工学研究科, 教授 (40227088)
北岡 貴文 京都大学, 工学研究科, 助教 (40741583)
小林 晃 関西大学, 環境都市工学部, 教授 (80261460)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地盤工学 |
研究実績の概要 |
平成29年度に,タイ・チェンマイの風化花崗岩残積土を用いて構築された小規模盛土斜面において実施した検討は,以下の2項目である. 1)平成29年7月中旬に,当該斜面浅層部(GL-0.2m~GL-1.0m)に計測器(テンシオメータ,土壌水分計,雨量計)を設置し,計測間隔2分でサクション,体積含水率および雨量を計測し原位置に設置したデータロガーに集積した.そして,この原位置計測結果をインターネット回線を用いて日本側のサーバーに転送することで,日本において不飽和土の降雨浸透および排水特性の挙動に関する検討を実施した.この検討として,当該斜面における降雨浸透は,マトリックス部のポテンシャル流に加えて,局所的に存在する粗粒分に相当する空隙に起因する選択流(Preferential flow)が発生してることに加えて,2種類の流れにより斜面浅層部にサクションがほぼ0の領域(Near-zero pressure zone)が形成されることを明らかにした. 2)平成30年1月下旬に当該斜面において電極間隔を0.2mとした高密度電気探査を実施した.なお,当該斜面においては,先行研究として計3回(乾季終了時:平成27年5月,雨季中盤:平成27年9月および平成28年7月)同様の高密度電気探査を実施している.このため,今回の電気探査は乾季中盤に実施することで,既往の乾季終了時と雨季中盤での電気探査により得られた比抵抗値との相関に着目した.併せて,原位置で計測された体積含水率変化との相関についても検討を加えた.この結果として,当該斜面においては,浅層部(GL-1.4m程度)において選択流(Preferential flow)の発生の要因となる高空隙部が存在しており,この領域での比抵抗値は,乾燥状態で高比抵抗値を示すが,湿潤により比抵抗値が顕著な低下特性を示すことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度の検討により得られた知見は,以下のように要約される. まず,当該斜面の原位置計測結果および電気探査結果より,浅層部(GL-1.4m程度)において選択流の発生の要因となる高空隙部が確認された.この高空隙部では,高強度降雨の到来時には,サクションがほぼ0近傍まで減少した時点で体積含水率が急激に増加する,いわゆるスパイク現象が発生している.一方,マトリックス部のポテンシャル流では,選択流(Preferential flow)に遅れてサクションの低下および体積含水率の増加が発生し,その後2種類の流れにより斜面浅層部にサクションがほぼ0の領域(Near-zero pressure zone)が形成される.この領域では,後続する降雨に対して,表面からの浸透ではなく降雨に起因する圧力伝播により,間隙水が下方に伝搬されるとともに間隙圧の増加が発生することが確認された.この現象は,近年の研究において,降雨に起因する浅層地すべりの発生メカニズムとして着目されているものであり,次年度の研究において更なる検討を加える必要がある. 一方,スパイク現象が終了した後の排水過程での,同深度でのサクションの経時変化は,マトリックス部のポテンシャル流に相当する箇所と,選択流に相当する箇所でほとんど一致している.この傾向は,土壌水分曲線SWCCの解釈で,排水時のサクション変化は空隙サイズに依存するという知見と一致する.この知見に基づき,法尻および中腹部のGL-1.0mでの排水過程でのサクションの経時変化と,気象庁により開発された土壌雨量指数の経時変化に着目した結果,両者に明確な相関があることが明らかとなった.この特性は,土砂災害警戒体制を,いつ解除するかの意思決定に資する重要な情報となる可能性があるため,次年度の研究において更なる検討を加える必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,先行研究を含む当該斜面において得られた知見に基づき,以下の検討を実施する予定である. まず,当該斜面での電気探査結果より,比抵抗値の変化は飽和度の変化(本質的には,体積含水率の変化と等価)が支配的因子となること,およびその変化は斜面浅層部(GL-1.4m程度)に限定されるため電極間隔が短い高密度電気探査を実施することが不可欠であるという知見を得ている.一方,原位置計測結果より,当該斜面における降雨浸透は,マトリックス部のポテンシャル流に加えて,局所的に存在する粗粒分に相当する空隙に起因する選択流が発生してることに加えて,2種類の流れにより斜面浅層部にサクションがほぼ0のNear-zero pressure zoneが形成されることを明らかにした.ただし,この計測結果は離散的な計測点に対して得られたものである.したがって,平成30年度においては,雨季に降雨時にある一定期間に連続的に高密度電気探査を実施することで,ポテンシャル流・選択流の発生状況および,Near-zero pressure zoneの形成状況を面的に捉えることを試みる予定である. 次に,土砂災害警戒体制の解除の意思決定に資する可能性があるサクションと土壌雨量指数の経時変化との相関については,平成30年度は当該斜面での計測を継続をすることでデータの蓄積を図るとともに,他のサイト(例えば,先行研究のタイ・プーケット切土斜面,および日本での斜面)での計測結果に同様な検討を実施することで,本手法の適用性について検討を加える予定である.
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