研究課題/領域番号 |
17H04598
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
栗原 達夫 京都大学, 化学研究所, 教授 (70243087)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 好冷性微生物 / 物質生産 / タンパク質生産 / タンパク質分泌生産 |
研究実績の概要 |
南極海水から分離したShewanella livingstonensis Ac10を宿主とした発現制御可能な低温タンパク質生産システムを構築した。また、種々の低温環境からタンパク質分泌生産性に優れた新規低温菌を分離した。その一つであるPseudoalteromonas nigrifaciens Sq02はほぼ単一の主要分泌タンパク質として分子質量約70 kDaの機能未知タンパク質P320を生産する。P320遺伝子の破壊株(Δsq320)が形成するバイオフィルム量が、野生株に比べて顕著に低下することが見いだされ、P320がバイオフィルム形成に関与することが示唆された。一方、液体培地では野生株とΔsq320の生育速度や菌体収量に顕著な差は見られなかった。この結果から、Δsq320を宿主とし、P320との融合タンパク質として外来タンパク質を生産することで、P320が共存しない高純度の融合タンパク質を分泌生産できることが期待された。これらの知見を基盤として、本菌を宿主とした異種タンパク質の分泌生産を試みた。低温菌Desulfotalea psychrophila DSM12343由来のタンパク質PepF、LAP、PepQ、BglAのそれぞれをP320のC末端に融合させたタンパク質をP320遺伝子プロモーターの制御下で発現するプラスミドを構築し、P. nigrifaciens Sq02に導入した。その結果、天然型のP320と同程度の生産量で各融合タンパク質が培養液上清に分泌された。次に、Δsq320を宿主とした分泌生産を試みた。その結果、各融合タンパク質が培養液上清中にほぼ単一のタンパク質として分泌生産された。それぞれの生産量は培養液1 L当たり18℃では52~71 mg、4℃では20~37 mgであり、天然型のP320に匹敵する生産量であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低温環境から分離した低温菌を宿主とした外来タンパク質の分泌生産系の構築に成功した。特に、キャリアータンパク質の遺伝子破壊株を宿主とすることで、宿主が本来生産していたキャリアータンパク質が混在しない形で、高純度の外来タンパク質を低温で分泌生産することに成功した。熱安定性の低いタンパク質や宿主に毒性を示すタンパク質を高生産し、さらにそれらを遠心分離などの簡便な手法で精製する上で有用なシステムとして期待される。ただし、現状ではキャリアータンパク質との融合タンパク質として外来タンパク質を生産するシステムとなっているため、融合タンパク質からキャリアータンパク質領域を除去する方法の開発は課題として残されている。また、生産量の点でも改善の余地があることから、「おおむね順調に進展している」と評価することが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
有用好冷性微生物の探索を引き続き行う。タンパク質分泌生産能に優れた菌株の探索を継続するとともに、宿主タンパク質の熱処理による変性除去が容易な菌株の探索を行う。これまでに構築した低温タンパク質分泌生産系については、キャリアータンパク質との融合タンパク質として生産された外来タンパク質が本来のコンフォメーションと活性を保持していることを確認するとともに、キャリアータンパク質を効率的に除去する手法を開発する。キャリアータンパク質と外来タンパク質の接続部位へのプロテアーゼ切断配列の導入などを検討する。また、キャリアータンパク質の分泌機構の解析に基づく分泌生産能の増強も試みる。
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