研究課題/領域番号 |
17H04600
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
森下 和広 宮崎大学, 医学部, 教授 (80260321)
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研究分担者 |
鈴木 穣 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40323646)
中畑 新吾 宮崎大学, 医学部, 講師 (80437938)
市川 朝永 宮崎大学, 医学部, 助教 (80586230)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ペルー / HTLV-1 / ATL / 糞線虫 / 腸内細菌 / ゲノム解析 |
研究実績の概要 |
HTLV-1は日本、南米、アフリカ、カリブ海沿岸諸国が高浸淫地域であり、日本を除くこれらの地域では寄生虫感染症である糞線虫症が流行している。HTLV-1キャリアへの糞線虫感染は、重症糞線虫症の発症、及びそれに伴う成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)の発症を促進する。本研究では、ペルーにおける糞線虫重複感染によるATLL発症加速機構を解明し、ATLL発症予防治療法の開発につなげる。今年度において、ペルーカジェタノ大学との共同で、糞線虫感染または非感染HTLV-1キャリアおよびATLL患者の末梢血を採取し、糞線虫重複感染とHTLV-1プロウイルス配列との関連を検討した。これまで43検体を収集し、そのうちの12例のDNAを用いて、ウイルスの全長をPCR増幅し、Hiseq3000により解析した。系統樹解析から、我々が解析した症例のウイルスは、全てHTLV-1aサブタイプであり、transcontinental subgroup Aのラテンアメリカクラスターに含まれることが分かった。さらに、HTLV-1・糞線虫重複感染キャリアは、特定のクラスターを形成することを示唆した。一方、関連解析では、サンプルサイズからウイルス配列の特徴と糞線虫感染との関連において、有意差が得られなかった。また、糞線虫重複感染による腸内細菌叢への影響を検討するため、これらのコホートから糞便を採取し、16S rDNAシークエンスによる腸内細菌叢解析を行った所、重複感染との関連が予想される菌叢変化が存在する可能性が示唆された。引き続き症例数を増やし、これらのゲノム解析を進め、糞線虫重複感染または重症糞線虫症と腸内細菌叢変化、さらには、HTLV-1感染リンパ球のゲノム変異との関連を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
検体収集が順調に進み、次年度までに100例程度を収集できる見込みであり、すでに収集されている保存検体を含め、解析に必要な症例数を十分に確保できることが分かった。また、腸内細菌叢解析から、糞線虫重複感染により特異的な腸内細菌叢変動が生ずる可能性が示唆されたことから、糞線虫感染が宿主の免疫学的な変化を誘導し、HTLV-1感染リンパ球の増殖を促進することでATLLの発症を加速させる機構が推察された。そこで、HTLV-1のクローナリティ解析やHTLV-1感染リンパ球のゲノム変異を詳細に明らかにする必要があると考えられ、今後の検討課題として進める。以上、これまでの解析は、次年度につながる結果が得られており、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ペルーにおける糞線虫重複感染とATLL発症との関連を検討するため、糞線虫感染あり、または糞線虫感染のないHTLV-1キャリアのHTLV-1感染リンパ球のゲノム解析とクローナリティ解析を進める。また、HTLV-1ゲノムの多型、および構造的異常を検討する。HTLV-1キャリアの末梢血に含まれるHTLV-1感染リンパ球の割合は数%程度であることから、効率かつ正確にゲノム解析を進めるためターゲットエンリッチメント法を用いてHTLV-1プロウイルス配列を濃縮し、HTLV-1の挿入部位と配列解析を行う。また、HTLV-1感染リンパ球のゲノム解析はがん関連遺伝子変異パネルを用いて、ディープシークエンスにより変異の有無を詳細に解析する。これらの解析から、糞線虫重複感染によるHTLV-1感染リンパ球のクローナルな変化や、ATLL発症に関わるゲノム変異の蓄積など、ATLL発症加速機構を明らかにする知見が得られるものと考えている。さらに、腸内細菌叢解析を進め、HTLV-1プロウイルス量と相関する菌叢変化の同定を進める予定である。
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