研究課題/領域番号 |
17H04604
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴木 仁 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (40179239)
|
研究分担者 |
高田 豊行 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 助教 (20356257)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ミャンマー / オニネズミ / ナニョウネズミ / クマネズミ / ハツカネズミ / 住家性 / 遺伝的多様性 / 第四紀後期地球環境変動 |
研究実績の概要 |
①ヤンゴン大学の研究協力者とミャンマー南部のメイ市においてネズミ類の採集調査を行った。クマネズミ(Rattus rattus complex Lineage II)、ナンヨウネズミ(Rattus exulans)、コオニネズミ(Bandicota bengalensis)が採集された。一方、ハツカネズミ類(Mus sp.)は採集されず、当該地域にはMus属の種は分布しない可能性が示唆された。 ②ミャンマー産の4種の住家性ネズミ類、ナンヨウネズミ、クマネズミ、コオニネズミ、ハツカネズミ(Mus musculus)において、ミトコンドリアDNAのcytochrome b 遺伝子(1140 bp)をマーカーとして用い、集団動態の比較研究を行った。クマネズミは13万年前と6万年前頃に集団の一斉放散現象が認められた。これは、約14万年前の「一つ前の氷期最盛期」の冷温期に、森林性のクマネズミにボトルネックが生じ、13万年前の温暖期に多様化が生じたと推察された。この時派生した系統の1つが東方移動し、1万年前頃にベトナム周辺で一斉放散し、その派生系統が日本列島に及んでいることが示された。また、6万年前頃の氷期(MIS 4)とそれに続く間氷期(early MIS 3)にミャンマーの森林域で2度目の一斉放散が生じたことが示唆された。これは、ミャンマーおよびその周辺の森林域でクマネズミのホームランドであり、亜熱帯域に生息するネズミ類の遺伝的多様性は第四紀後期のグローバルな環境変動に影響を受けることが明らかとなった。一方、残りの3種のネズミ類の遺伝的多様性のレベルは低く、数千年前の農業の発展に伴う生活環境の変化により、周辺の他地域からミャンマーへの移動を招いた可能性が示唆された。 本研究により、人為的環境の変化がネズミ類の分布に大きな変革をもたらすことを改めて確認することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、ミャンマー産オニネズミ属(Bandicota属)3種の分子系統学的位置付けとB. bengalensisの遺伝的構造に関する研究論文を公開することができた。これまでのミトコンドリアDNAの多様性の解析により、ミャンマー産ネズミ類の分布状況、分子系統学的位置づけ、そして集団動態の解析をR.exulans、R. rattus complex (Lineage II)、B.bengalensis、そしてM. musculus (M. m. castaneus Lineage CAS-1)の4つの種で行うことができた。これにより、ミャンマーにおける集団動態のあらましを理解することができた。現在、本研究内容に関して論文を投稿中である(現在、1回目の審査が終了し、2回目の投稿準備中)。
|
今後の研究の推進方策 |
昨今は、海外への出張が難しい状況になってきており、これまでのような収集活動はできないがヤンゴン大学および獣医化大学の共同研究者にネズミ類の採集協力を求め、必要なサンプル収集を進めて行く。これまで得られているサンプルを用い、全ゲノム解析を視野に入れ、解析を進めて行く。特に、クマネズミについて、ミャンマーと日本列島との比較を進め、ミャンマーで生成した遺伝的多様性の多様化が、ユーラシアの東部最先端においてどのような遺伝的多様性を持つに至っているのかについて詳細に検討する。ミャンマーで発見された全身黒色性のコオニネズミについてもその責任変異と地理的分布について報告を行う。ミャンマーにおける住家性ネズミ類の多様性に関する統合的理解を得るために、R.exulans、R. rattus complex (Lineage II)、B.bengalensis、そしてM. musculusにおいて、分布域および遺伝的多様性のレベルや空間構の視点で解析し、住家性以前の動態と住家性の時代の動態のそれぞれについて進化的動態を再構築する。 本年度は最終年度であるため、これまでの研究成果の論文化と研究の総括に傾注し、研究を進めて行く。
|