研究課題/領域番号 |
17H04609
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
村上 哲明 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (60192770)
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研究分担者 |
國府方 吾郎 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (40300686)
渡邊 謙太 沖縄工業高等専門学校, 技術室, 技術専門職員 (50510111)
高山 浩司 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60647478)
横山 潤 山形大学, 理学部, 教授 (80272011)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 海洋島 / 送粉 / 共生系 / 分子系統地理学 |
研究実績の概要 |
大陸と一度も陸続きになったことがない海洋島である小笠原諸島には、多くの固有植物種が生育している。DNA情報を活用してこれらの固有種の祖先種を特定する。さらにその起源地と推定されている東南アジアや太平洋諸島において、それら祖先種の性表現・繁殖様式、並びにそれに大きな影響を与えたと考えられる送粉動物相の調査を行う。得られた情報を小笠原と起源地の間で比較することによって、小笠原産固有種の祖先種が小笠原にたどり着いてから起きた進化的変化、ならびにそれを引き起こした要因を具体的に解明することが本研究の目的である。 2年目の平成30年度は、パラオ諸島において、祖先種である可能性がある陸上植物の葉サンプル(DNA解析用)と花サンプルを採集した。同時に、コンパクト・デジタルカメラを活用したインターバル撮影などにより、どの時間帯にどのような訪花動物が花に来ているかも調査した。さらに、小笠原では有効な送粉者の一つと考えられたオガサワラヤモリをパラオ諸島でも捕獲することができた。小笠原では、ヤモリが被子植物の花に集まる昆虫に加えて、花粉と蜜も餌資源とすることで、有効な送粉者となっていることが示唆されていた。今回、捕獲したオガサワラヤモリの胃内容物などを調べることでも、オガサワラヤモリが元々から植物の送粉者だったのか、それとも小笠原諸島にたどり着いてから固有植物種と共進化を遂げて送粉者となったのかを解明できる可能性がある。 さらに今年度は、フィリピン、台湾、琉球で採集したハウチワノキ(ムクロジ科)の核DNAを解析して、小笠原産のハウチワノキとの比較もおこなった。その結果、小笠原産のハウチワノキはこれらの地域のものとは別系統であることがわかり、この種についてはこれらの地域が起源地ではないことが明らかになった。今後、太平洋諸島産のものと比較することで、起源地を解明できるのではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、小笠原諸島産の陸上植物の起源地を解明して、そこと小笠原諸島の両方で送粉共生系を比較することが必要になる。フィリピン、台湾、北マリアナ諸島のロタ島、ハワイ、そしてパラオ諸島など、小笠原諸島をぐるっと囲む東南アジア諸国と太平諸島において植物材料の採集と送粉共生系の野外調査(インターバル撮影による訪花者の調査、訪花動物の捕獲など)が順調に行えているので、本研究は順調に進展していると考えている。 一方で、今年度、小笠原諸島を含む東南アジア~太平洋諸島の亜熱帯域に広分布するハウチワノキで明らかになったように、小笠原諸島産のものが琉球、台湾、フィリピン(東南アジア)のものとは別系統である(これらの地域が起源地ではない)ことが明らかになる場合もある。しかし、これも重要な発見である。我々がDNA情報を活用して比較するまでは、小笠原諸島産の多くの陸上植物が小笠原諸島と距離的に最も近い琉球列島に起源すると考えられていた。琉球列島が小笠原産植物の起源地ではないことも重要な発見なので、起源地を探る上ではネガティブなデータについてもきちんと整理して、学術論文として公表していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
特に小笠原諸島での独自の送粉共生系として、爬虫類のヤモリ類(オガサワラヤモリなど)が深く関わっているのではないかという仮説を立てている。一方で、オガサワラヤモリは単為生殖種であり、東南アジアから太平洋諸島に広く分布している。そもそも小笠原諸島にたどり着く前にヤモリと被子植物の送粉共生系が確立していた可能性もある(もし、そうなら、それ自体が非常に大きな発見であるが)。小笠原諸島産野生植物の重要な起源地の一つと考えられる北マリアナ諸島やパラオ諸島でオガサワラヤモリが訪花しているか、さらに送粉者として機能しているかを調べることは、小笠原諸島における送粉共生系の進化を探る上でとても重要な研究課題の一つであると考えている。 同様に、小鳥類など鳥類も,海洋島である小笠原諸島では陸上植物の送粉者として、その役割がより重要性が増していることも十分に考えられる。このように昆虫類以外の動物が深く関わる送粉共生系については、特に注目をして小笠原諸島ならびにその起源地での調査・研究を行っていきたい。
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