研究課題/領域番号 |
17H04625
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小池 一彦 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (30265722)
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研究分担者 |
作野 裕司 広島大学, 工学研究科, 准教授 (20332801)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マングローブ / インドネシア / マングローブ底質 / 付着珪藻 / セルロース / 基礎生産 |
研究実績の概要 |
昨年度は雨季前の9月に現地調査を行った。今年度は季節を変え,雨季後の3月にジャワ島東端のパンパン湾において調査を実施した。なお,昨年度まではシトウボンドのバルラン国立公園を調査対象地としていたが,同沿岸は外洋に面しており,北風が卓越する3月には乗船調査に適さないと考えたために,より閉鎖的で穏やかなパンパン湾に調査対象地を変更した。同湾に5点のマングローブ底質調査点を設け,3月9日の干潮時に上陸し,底質間隙水の分析および底生珪藻の分析を行った。翌日の10日の満潮時には,湾奥部を縦断するような測線をもうけ,海水に底生珪藻類が懸濁してくるかの調査を行った。その結果,海水に懸濁するプランクトン粒子のおよそ40%は底生珪藻類であり,マングローブ底質上のバイオマスが水柱の基礎生産にも貢献していることが確認された。また,良く保全されたマングローブ底泥上に優占する珪藻種が同湾にも多く出現した。現地調査を実施した9日と10日にはLandsat人工衛星の画像が取得されていなかったが,3月17日の取得画像から湾内の水温分布,推定クロロフィル濃度を可視化した。その結果,湾に注ぎ込む二つのクリークからのクロロフィル流入量が高いものの,湾奥の底泥上から流出してきたと思われる高クロロフィル帯も認められ,やはり湾内全体の生産性に底生珪藻が寄与していることが示唆された。 今回は,マングローブ生態系で最も豊かな有機物であるセルロースが,生態系全体の維持に貢献しているかの予備的調査も行った。パンパン湾から採集した二枚貝,巻貝,甲殻類の腸管内容物のセルロース分解活性を測定したところ,二枚貝3種,巻貝3種,甲殻類1種において強いセルロース分解活性が認められた。このことは熱帯マングローブ域の食物網の多様性を示唆するとともに,この地域の高い生物生産性と生物多様性を理解する上での基礎的データを提供すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初に主要な調査地域と想定していたジャワ島北東部の沿岸は,想定以上にマングローブ林の開発とえび養殖池の拡大が進み,マングローブ林本来が持っている生態系システムを調査するには適していなかった。そこで昨年度はバルラン国立公園の保護区内で調査を試みたが,外洋に面しており乗船調査が困難であること,また河川が少なく,マングローブ林がそれほど発達していないことなどの問題点があった。本年度はアクセスが容易であるジャワ等北東部の利便性を捨て,拠点としているスラバヤからは更に航空機の利用が必要であるが,最も豊かなマングローブ林が保全されているパンパン湾に大幅変更した。また同湾の東側は保全されたマングローブ林に面しており開発が制限されているが,西側はインドネシア各地の沿岸開発の例に違わずエビ養殖池が発達しており,同じ湾でコントラストがついた結果が得られると期待される。ジャワ島北東部の調査成果は既に1報の論文として公表され,2報目も投稿中である。これらの成果から,健全で生産性の高いマングローブ域の指標珪藻種が同定されており,その情報を用いてパンパン湾の結果を解析していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2019年度は現地調査を予定していなかったが,パンパン湾という好適調査点を得たので,雨季前の9月もしくは10月に再び現地調査を行う予定にしている。また,当初計画にあった柱状コアサンプルからの過去環境の推定も同湾の試料を用いて行う予定にしている。
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