モンゴルの草原の荒廃を防ぐためには牧畜民コミュニティーによる適切な草地管理が求められている。本研究は、行動経済学の手法を用いて、牧畜民の持続的な草地利用に関する規範意識を示すことをねらいとする。 本年度は、まずモンゴル国中部のウランバートル市およびその周辺に位置するトゥブ県において、牧畜民の経済実験の予備調査を行った。その結果、牧畜民は極めて広い範囲に散在しており、携帯電話が通じないところが多いため、比較的小規模なグループを形成して経済実験を行うことにした。その後、モンゴル国ウランバートル市およびトゥブ県地域2箇所において行動経済学実験を行い、遊牧民の共有草地利用に関する公共意識について調べた。すべての回答者が、共有の牧草地を保全するために多かれ少なかれ投資を行う意思があることが示された。森林ステップ地域、ステップ地域、首都郊外の牧畜地域で、コミュニティーの結束や公共意識が異なることが分かった。牧畜民の規範の特性が地域に応じて異なるため、規範ベースの草地管理政策を導入する場合にはこうした地域の違いに応じた施策が必要であることが分かった。ただし、地方と都市周辺など地域による違いがあることが予想され、広範囲の地域間の差異を明らかにすることが残された課題である。
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