研究課題/領域番号 |
17H04632
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
長束 勇 島根大学, 生物資源科学部, 名誉教授 (90379694)
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研究分担者 |
石井 将幸 島根大学, 生物資源科学部, 准教授 (50293965)
上野 和広 島根大学, 生物資源科学部, 助教 (60560167)
小林 範之 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (00314972)
佐藤 嘉展 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (90414036)
佐藤 周之 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (90403873)
長谷川 雄基 香川高等専門学校, 建設環境工学科, 助教 (70797092)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ブータン王国 / 小規模貯水施設 / 農業用水需給バランス / 棚田地形 / 用水計画 |
研究実績の概要 |
初年度となる2018年度は,研究代表者と分担者が集まる機会を3度(7/1東京,2/15島根,3/2岡山)設け,研究の全体像の把握と各々の分担内容,現地調査の事前打合せ,研究実施状況の確認について,綿密に打合せを行った。また,9/21~26までブータン王国にて,現地打合せおよび調査を行った。現地では,ブータン王国農林省農業局(DOA)の担当技術者およびChief Engineerとの会談を調査事前,事後の二度にわたって行った。2018年3月13日~19日には,急峻な棚田地形を有し,水資源の不足が課題となっているタイ王国北部(Chiang Mai)の現地調査を行った。現地カウンターパートはタイ王国農業・協働省農業局(DOA)である。ブータン王国と同様に,急傾斜地の農業地帯では安定した水資源の確保が喫緊の課題であり,タイ王国DOA所管の研究センターであっても,水源確保が課題となっていること,センター内に小規模貯水施設を設置する試みの現況と今後の計画を聞き取り,ブータン王国と同様の急傾斜地における水源確保が課題であることを確認した。 これら二度の現地調査ならびに国内での研究打合せを踏まえ,日本国内で実施する実験・解析の課題の抽出を終えるとともに,さらに現地調査が必要となる項目を確認した。とくにブータン王国の小規模貯水池を建造する際に応用可能と考えられていた伝統技術のひとつである版築工法は,単独では十分な機能および安全性を発揮しないことから,当初予定どおり,開発途上国で容易に応用可能で経済性に優れ,耐震を含めた安定性を有する工法開発を同時に進めることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は四組織(島根大学,愛媛大学,高知大学,香川高専)で取組むため,予定どおり国内で三度の研究打合せを行った。その成果として,研究代表者・分担者間において研究の全体像の把握,各々の分担内容,現地調査の事前打合せ,研究実施状況を確認しながら円滑に進めることができた。 2017年9月21日~26日までブータン王国にて行った現地打合せおよび調査では,現地のカウンターパートとなるブータン王国農林省農業局(DOA)との連携を進めるとともに,現地住民のニーズの汲み上げを進めることができた。とくに,ブータン王国における農業の現状,農業用水の管理状況,農業用水資源の管理方法などの聞き取り調査結果や,本課題で対象地区のひとつとしたブータン王国東中部に位置するGebekha村(水資源の確保が困難な地域)での現地調査結果は,次年度以降の本研究課題の方向性を確認・決定する上で重要であった。また,2015年秋にブータン王国の伝統的版築技術で建造した小規模な貯水施設の経年変化からは,伝統技術の有用性に関する貴重な知見を得ることができた。 2018年3月13日~19日までタイ王国北部に位置するChaing Maiで現地調査を行った。本地域は,急峻な棚田地形を有し,かつ水資源の不足が課題となるなど,ブータン王国との類似性が高い環境を有している。現地カウンターパートとなるタイ王国農業・協働省農業局(DOA)とともに,タイ北部の代表的な農業の例として,Royal Chiang Mai Research Center内の急傾斜地圃場における果樹・畑作栽培地を調査対象とした。一部で既に小規模なため池造成に取り組んでいる場所があったが,本研究課題で明らかにすべき小規模貯水施設建造の技術的課題が明らかとなった。 このように,当初予定を踏まえた研究の進捗となっていることから,順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の現地調査結果を踏まえ,研究分担者各自が日本国内での実験・解析を進めるとともに,追加で必要と明らかになったデータの取得を,現地への計器設置や再度の調査により進めて行く予定である。とくに,現地の伝統技術である版築技術だけでは十分な貯水性能を有する貯水施設の建造が困難であることが明らかになった。これは非常に重大な結果であり,日本国内の先進技術と伝統技術の複合的利用を視野に入れ,築堤にベントナイトを利用する方法について検討を進めることとなった。理由は,ベントナイト混合土などによる遮水層構築は理論的に可能であるが,現在は国内でも廃棄物処理場の建造が主たる利用であり,安定した貯水施設への利用(ベントナイトの膨潤特性の管理,耐震性など)に向けた研究が必要なためである。また,ベントナイトそのものは,インドでも多量に産出する材料であり,ブータン王国をはじめとする東南アジア諸国で安価な建設材料として利用することが可能と考えられるためである。貯水性能と併せて,小規模な貯水施設の建造に係るコストおよび建造の容易さは,現地への導入の有無を決定する重要な要素となるため,バランスの取れた堤体築造技術の開発を進めて行く予定である。 一方,前年度のブータン王国での担当技術者との打合せ等を通して見えてきた課題が,カウンターパートとの共通認識の更なる深化である。たとえば,本調査は学術研究が目的であることについて,繰り返し説明をしているにもかかわらず,財源的な支援などを求められることが度々あり,日本のODA等や世界各国からの支援と同じと誤認している様子が伺えた。この点については,今後の調査研究の進捗を大きく左右する要因となるため,早期に解決をする必要がある。
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