研究実績の概要 |
マラリアの流行地では、無症候性感染者(過去に感染し、一定程度の免疫を持ちながらも感染者として存在する人)が、原虫のドナーとなることがる。そのため、マラリア撲滅のためには、無症候性感染者の治療が重要であり、伝播阻止の鍵となると考えられる。このような背景から、流行地で使用可能な、迅速かつ簡単に使用できる、高感度なマラリア診断デバイスの開発が求められている。私たちは、これを実現するデバイス(Malaria Cell Disc system, MCD)を独自に開発した。本研究では、マラリア罹患率が特に高いケニアのビタ地区において、MCDを用いて無症候性感染者の原虫の高感度検出、種の同定、および薬剤耐性の有無の判定を行い、次世代のマラリア診断法のゴールドスタンダードの確立を目指している。 我々は、MCDがアフリカで有用であることを示す報告を2020年におこなった(Yamamoto T, Hashimoto M* et al, Sci Rep, 2020)。我々は、超流行地域であるケニアのビタ地区に住む274人の無症候性感染者を対象に、MCDのマラリア診断能力を評価した。血液サンプルは、nested PCR法によりマラリア原虫種の鑑別が可能であり、感染の有無を判定した。本地域には、最も致死率が高い熱帯熱マラリア原虫が90%以上存在した。また、感染者由来の血液サンプルの感染率(パラシテミア)は、血液薄層または厚層塗抹ギムザ染色標本の顕微鏡観察によって決定した。PCRの結果をレファレンスとし、MCDによる診断の感度は100%、特異度は92.8%であり、非常に高い正確性を示した。ただし、本デバイスには安定した赤血球の精製が必要であることが明らかになった。そこで、アフリカでも使用可能なプッシュカラムを開発することで、安定した赤血球の精製が可能になった。
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