研究課題/領域番号 |
17H04659
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
山本 太郎 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (70304970)
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研究分担者 |
植田 信太郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (20143357)
水野 文月 東邦大学, 医学部, 助教 (50735496)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高地と糖尿病 / フィールド医学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、急速な近代化に晒されつつある中国からネパールに至るチベット高原に暮らす高地住民を対象として、腸内細菌叢(ヒト・マイクロバイオーム)の多様性の変化を調べることと同時に、そうした変化と肥満、Ⅰ型糖尿病発症等との関連を検討することである。 そこで29年度は、チベット高原及びネパールのムスタン地方で質問紙調査、医師の問診によって、身長、体重、体脂肪率、耐糖能(HbA1C)、血液生化学的検査(ヘモグロビン、酸素飽和度)を行った。健康調査には189名の住民が参加した。すべての参加者から本健康調査への参加同意書を取得したが、そのうち、1名は質問票の記載不備等により今回のデータからは削除した。 その後調査の結果を解析した。その結果、① 40%以上の住民が関節部に不調を訴えたこと、② HbA1cの値が糖尿病の前段階を示す状態が30%以上の住民に認められ、かつ40歳以上からその傾向が顕著に認められることがわかった。それは、住民の高地適応への破綻と関連しているように見えた。そこで、HbA1cの値に影響する因子について重回帰分析にて検証を行ったところ、従来の報告でHbA1cとの関連性が示唆される年齢やBMIに加えて、低酸素状態が、肥満や糖尿病に何らかの影響をもたらすことが示唆される結果が得られた。これは、当地の低酸素環境とその適応が住民の健康に、なんらかの影響を与えていることを示唆するものであった。30年度は、低酸素遺伝子に焦点を当てて、その多型と糖尿病、関節炎の関係を探っていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予想した、肥満や糖尿病と高地適応の関係については、高地適応が進んでいる集団ほど、上記疾病に対し脆弱である可能性が示され、現在、論文を投稿準備中である。ここまでは、当初の計画通りである。一方、上記とは別に、フィールドでの解析の結果、低酸素と関節リューマチとの関連を示唆する結果が得られ、関節リューマチと糖尿病、低酸素状態を結びつける、低酸素適応遺伝子の変異の可能性が示唆され、もしこれが、そうであると示された場合には、世界で初めての報告となり、極めて意義に高い結果になると考えられる。それが、研究が当初の計画以上に進んでいると考える理由である。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、腸内細菌叢のゲノム解析の実験を開始する。腸内細菌叢のゲノム解析は、1)16S rRNAシークエンスと、2)ショットガンシークエンスを行う。16S rRNAは、全長約1.5kbの細菌に共通の必須遺伝子で、保存領域と可変領域が織りなす構造のため、保存領域にプローブを設計し、可変領域を挟み込むようにPCRを行い、その後、アンプリコン次世代シークエンス(NGS)を行う。それによって、菌種の組成解析が可能となる。一方、ショットガンシークエンスでは、腸内細菌叢DNAからNGSライブラリーを作製し、シークエンスを行う。得られたゲノム配列は、データベース(KEGG等)で、相同性検索を行い、細菌叢内の遺伝子機能に関する情報を得る。比較メタゲノム解析により、個別の腸内細菌叢に特徴的な遺伝子の同定を行うことができる。ショットガンシークエンスでは、モザイク現象やバイアスによる影響がほとんど存在しない。そのため、安定した結果が期待できる。また、収集した生体試料(爪)より、低酸素適応遺伝子(EPAS1、HIF等)多型を解析する。
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