多くの研究から東南アジアを含む多くの地域に生活する健常人には、第三世代セファロスポリンを分解し、これら細菌による感染症治療を困難にすることから、臨床上重要視されている薬剤耐性菌の一つである基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌などの薬剤耐性菌を保菌しているいわゆる健康保菌の実態があることが示されている。特に東南アジアではESBL産生菌の健康保菌率は非常に高く、50%程度以上と観察されている。この健康保菌はESBL産生菌のリザーバーとして機能している可能性もあることから、ESBL産生菌の拡散及び多剤耐性化における健康保菌の意義を明らかにする必要がある。 本年度の実績として以下の点が挙げられる。①2018年にベトナムのハノイ近郊の調査地に居住する対象者600名から分離したESBL産生菌約350菌株の分子微生物学的解析を進めた。特に、健康保菌においてESBL産生菌のリザーバーとして機能している可能性の高い染色体性ESBL遺伝子の位置と遺伝型別について解析を進めた。その結果、染色体性ESBL遺伝子を保持しているESBL産生菌株は約8.1%であった。また、残りの91.9%の菌株はプラスミド性のESBL産生遺伝子を保持していたが、そのうち、82.0%(菌株全体の75.4%)の菌株ではESBL遺伝子の転位に必要なISEcp1のコーディング領域がIS26などによるインサーションによって破壊されていた。②本研究で得られた知見を疫学的介入に反映させるため、ベトナム側カウンターパート機関であるベトナム栄養院、タイビン医科薬科大学並びにベトナム保健省の薬剤耐性菌を統括している部署との話し合いを開始し、どのような介入ができるかについて討議を重ねた。
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