研究課題/領域番号 |
17H04668
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
張替 秀郎 東北大学, 医学系研究科, 教授 (50302146)
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研究分担者 |
梨井 康 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 移植免疫研究室, 室長 (60321890)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 鉄芽球性貧血 |
研究実績の概要 |
鉄芽球性貧血は、赤芽球のミトコンドリアへの鉄の沈着を特徴とする難治性貧血である。先天性・後天性に大別され、前者の遺伝性鉄芽球性貧血は希少疾患であり、その病態・分子遺伝学的解析のためには国際的共同研究による症例集積が必須である。本研究は、遺伝性鉄芽球性貧血の国際的分子疫学と新規原因遺伝子の同定、遺伝性鉄芽球性貧血と後天性鉄芽球性貧血(骨髄異形成症候群)間の病態および分子遺伝学的相違の解析、解析結果に基づく治療標的分子の同定と鉄芽球性貧血の新規治療法の開発、を目的としている。今年度、共同研究先の天津血液医院から17名の遺伝性鉄芽球性貧血症例の情報を得た。このうち7例に赤血球のヘム合成の律速酵素であるALAS2遺伝子の変異が認められており、その他3例でグリシンの取り込みタンパク質であるSLC25A38遺伝子の変異が認められていた。また同様に共同研究先であるインドのNational Institute of Immunohaematologyから、診断未確定の先天性貧血22症例の末梢血検体を得て解析を行ったが、遺伝性鉄芽球性貧血の原因となり得る遺伝子の変異は認められなかった。また、遺伝性鉄芽球性貧血の鉄芽球と骨髄異形成症候群の鉄芽球との間で発現遺伝子青確認したところ、遺伝性鉄芽球性貧血の鉄芽球で2倍以上の発現量を示した遺伝子は18%(4417遺伝子)、骨髄異形成症候群の鉄芽球で2倍以上の発現量を示した遺伝子は21%(5234遺伝子)、2倍以内の発現変化であった遺伝子は69%(14811遺伝子)であり、比較的遺伝子プロフィールが近似していることが示唆された。また、X連鎖性遺伝性鉄芽球性貧血由来のiPS細胞から鉄芽球をin vitroで文化誘導するとともにヒトiPS細胞由来赤芽球にALAS2遺伝子の変異を導入した株を作成し、in vitroで鉄芽球を再現良く作製する系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国の天津血液医院から遺伝性鉄芽球性貧血の症例情報を得ることができた。中国からの検体の国外提供が難しいため、日本での解析は断念せざるを得なかったが、すでに多くの症例で遺伝子異常が同定されており、予想通り中国においても赤血球におけるヘム合成系の初発酵素であるALAS2遺伝子の変異が最も多く確認されており、これは日本、米国同様であった。ただし、日本人では認められていないグリシンのトランスポーターであるSLC25A38遺伝子の変異が複数で認められており、日本と中国での遺伝的背景の違いが示唆されている。インドとの共同研究では残念ながら新たな遺伝性鉄芽球性貧血症例は確認できなかったが、新たに中国の蘇州大学と共同研究が開始できるめどが立った。また、in vitroでのヒト鉄芽球の作成系を確立することができ、今後この系を用いてより詳細に鉄芽球の形質を解析できることになった。これらの点から研究は順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
国際共同研究については、今後、中国蘇州大学においても鉄芽球性貧血の症例の収集と解析を進める予定である。また、アメリカハーバード大学とも検体の全ゲノム解析について共同研究を進めることになっている。実験的には、まず、当研究室が日本の症例で同定した鉄トランスポーターであるZIP8の変異が実際に鉄芽球の形成に寄与しているかどうか実験的に明らかにし、同定した遺伝子の病的意義を確認する予定である。また、前述のようにヒトiPS細胞由来赤芽球を用いた鉄芽球性作成系が、本研究の成果として確立できたため、すでに本分化系を用いて得られたALAS2変異による鉄芽球の形質を詳細に検討するとともに、今後新たな遺伝子候補が同定された場合は、随時このヒトiPS細胞由来赤芽球に変異を導入し、in vitroを用いて得られた遺伝子変異の病的意義を証明する予定である。
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