研究課題
鉄芽球性貧血は、赤芽球のミトコンドリアへの鉄の沈着を特徴とする難治性貧血である。先天性・後天性に大別され、前者の遺伝性鉄芽球性貧血は希少疾患であり、その病態・分子遺伝学的解析のためには国際的共同研究による症例集積が必須である。本研究は、遺伝性鉄芽球性貧血の国際的分子疫学と新規原因遺伝子の同定、遺伝性鉄芽球性貧血と後天性鉄芽球性貧血(骨髄異形成症候群)間の病態および分子遺伝学的相違の解析、解析結果に基づく治療標的分子の同定と鉄芽球性貧血の新規治療法の開発、を目的としている。今年度は、既知の原因遺伝子の変異が同定されなかった症例の遺伝子変異をハーバード大学との共同研究により行い、新たな遺伝子変異としてSLC5A6の変異を同定した。現在この変異の病的意義をin vitroの実験系を用いて解析中である。新たに中国の湛江中心人民医院を訪問し、同院での鉄芽球性貧血の症例について検討を行った。さらに、ヒトiPS細胞由来赤芽球にALAS2遺伝子の変異を導入した株を作成し、in vitroで鉄芽球を再現良く作成する系を確立した。この分化系を用いて作成した鉄芽球の形質を詳細に検討し、論文化することができた。
2: おおむね順調に進展している
中国との共同研究においては、中国からの検体の国外提供が難しいため、日本での解析は断念せざるを得なかったが、中国で解析された結果では、予想通り中国においても赤血球におけるヘム合成系の初発酵素であるALAS2遺伝子の変異が最も多く確認されており、これは日本、米国同様であった。新たに中国の蘇州大学、湛江中心人民医院と共同研究が開始できるめどが立った。また、変異が同定されない症例について米国ハーバード大学との共同研究で、新たな遺伝子変異を同定した。さらに、in vitroでのヒト鉄芽球の作成系を確立することができ、今後この系を用いてより詳細に鉄芽球の形質を解析できることになった。この系を用いて、これまで認められている遺伝性鉄芽球性貧血の原因遺伝子の変異を導入した細胞株を複数作成し、鉄芽球の作成に成功している。これらの点から研究は順調に進んでいると考えている。
国際共同研究については、今後、中国蘇州大学、湛江中心人民医院とも鉄芽球性貧血の症例の収集と解析を進める予定である。また、アメリカハーバード大学とも検体の全ゲノム解析について共同研究を進めることになっている。実験的には、新たに同定したZIP8およびSLC5A6の変異が実際に鉄芽球の形成に寄与しているかどうか実験的に明らかにし、同定した遺伝子の病的意義を確認する予定である。また、前述のようにヒトiPS細胞由来赤芽球を用いた鉄芽球性作成系が、本研究の成果として確立できたため、すでに本分化系を用いて得られたALAS2変異による鉄芽球の形質を詳細に検討するとともに、今後新たな遺伝子候補が同定された場合は、随時このヒトiPS細胞由来赤芽球に変異を導入し、in vitroを用いて得られた遺伝子変異の病的意義を証明する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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