研究課題/領域番号 |
17H04674
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研究機関 | 国立保健医療科学院 |
研究代表者 |
福田 英輝 国立保健医療科学院, その他部局等, 統括研究官 (70294064)
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研究分担者 |
林 善彦 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 名誉教授 (20150477)
モハマド シャー 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (40648086)
戸田 一雄 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 名誉教授 (80134708)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ケニア共和国 / 学童 / う蝕 / 歯肉炎 / 歯磨き習慣 |
研究実績の概要 |
ケニア国における人口10万人あたりの歯科医師数は、わが国のそれと比較すると40~50分の1と小さい。さらに、80%以上の歯科医師は大都市部に偏在し、地方住民は歯科医療の恩恵にあずかっていないことが報告されている。本研究では、ケニア国沿岸部にあるクワレ地区在住の65歳以上の高齢者、および12歳学童を対象として、歯科口腔の健康状態と生活習慣との関連を明らかにすることを目的として実施した。 2019年6月、ナイロビ大学-ケニアッタ国立病院の研究倫理審査委員会からの承認を得て、ケニア国クワレ地区在住の65歳以上の高齢者を対象として歯科口腔内診査、質問紙調査、および口腔内細菌叢分析を内容とする現地調査の準備していたが、ケニア国外への唾液の持ち出しができなくなったため、予定を延期し、2020年2月、クワレ地区の学童を対象に口腔内診査と質問紙調査を先に実施した。調査対象者は、世帯収入の異なる地域から選択したGolini小学校(高世帯収入)50名、およびYapha小学校(低世帯収入)51名の合計101名であった。口腔内診査はケニア人歯科医師1名が担当した。 口腔内診査の結果、一人平均のう蝕歯数は、Yapha小学校1.1本と比較して、Gollini小学校では2.6本と有意に大きかった。なお、すべてのう蝕は未処置であった。一方、歯肉炎の指標であるBOP割合(WHO探針での測定時に歯肉出血があった部位の割合)は、Yapha小学校69%と比較して、Gollini小学校では41%と有意に小さかった。また質問紙調査の結果、歯磨き回数「1日1回」とした者の割合は、Gollini小学校では86%、Yapha小学校では57%であった。 クワレ地区における12歳児の口腔内状況および歯科保健行動は、地区特性が異なる2つの小学校において有意に異なることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究初年度からケニア共和国大統領選挙に伴う政情不安による渡航規制、倫理審査委員会での審査期間の大幅な遅延などを理由として大きく進捗状況は遅れていた。 令和元年度は、クワレ地区在住の65歳以上の高齢者を対象とした口腔内診査時に、唾液を採取し、日本国内において口腔内細菌叢分析を予定していた。しかしながら、唾液サンプルのケニア国外持ち出しに際し「遺伝資源の利用から生じた利益の公平な配分(ABS)」手続きの必須化が明らかとなった。ABS手続きには、ケニア国内の共同研究機関であるナイロビ大学歯学部との研究契約書の締結、およびケニア政府の承認が必要だが、現地の研究協力者の支援が受けられないことも重なり、ABS手続きの継続が困難となった。そのため、令和元年度に予定していたクワレ地区在住の高齢者を対象とした調査は次年度に延期することとし、令和2年2月、クワレ地区の2つの小学校に通学する12歳児に対する口腔内診査、およびアンケート調査を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、クワレ地区在住の65歳以上高齢者に対する口腔内診査、歯周病菌の定量分析、および歯科保健行動に関するアンケート調査を予定している。 当初計画では、被験者の唾液サンプルを、日本に持ち込んで口腔内細菌叢分析を予定したが、「遺伝資源の利用から生じた利益の公平な配分(ABS)」手続きの継続が不可能であったため、唾液サンプルをケニア国外に持ち出さず、長崎大学熱帯医学研究所ケニアプロジェクト拠点が有する実験室において、PCR装置を用いた歯周病菌の定量分析を実施するよう計画修正を行った。 本年度は、修正計画に基づいて、クワレ地区Mwachinga保健センター管轄地区に在住する65歳以上高齢者に対する口腔内診査、およびアンケート調査の準備をすすめる。具体的には、長崎大学熱帯医学研究所が運営している「健康と人口の動態追跡調査システム」(HDSS:Health and Demographic Surveillance System)をもとに、対象者のサンプリングを行うとともに、Mwachinga保健センターでの調査に備えて人的(歯科医師、ヘルスボランティアなど)、および物的(会場設営、会場への交通手段など)な準備を進める予定である。さらにナイロビ市内の実験室において、PCR装置を用いた歯周病菌の定量分析が行えるよう準備をすすめる。 しかしながら、COVID19の世界的な流行にともない、うえの計画が進まない場合、長崎大学熱帯医学研究所が雇用するクワレ地区在住の現地スタッフの協力を得て、HDSSを使った代替調査も想定しておく必要があると考える。
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