研究課題/領域番号 |
17H04677
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
原 祐子 東京工業大学, 工学院, 准教授 (20640999)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 組込みシステム / 近似計算 / Approximate Computing / ソフトウェア解析 / 教師なし学習 |
研究実績の概要 |
近年Internet of Things (IoT)や人工知能 (AI) のアプリケーションを処理する組込みシステムでは、従来システム以上に小規模化・高速化・省エネルギー化の設計制約が課せられている。一方、これらのアプリケーションの多くは「計算の正確さを100%担保する必要はない」という大きな特徴を持つ。本研究は、積極的・体系的にIoT/AIアプリケーションの許容誤差を活用する、組込みシステムの新たな設計パラダイムを構築する。上記の制約を全て満足する新たな設計ブレークスルーを見出し、最適な組込みシステム協調設計技術を確立する。 前年度に引き続き、近似誤差伝搬の定性的解析モデルとそのフレームワークの拡張を行った。オープンソースのKLEE(記号シミュレーションとその正規表現)を用い、変数や演算の近似化が最終的な計算結果にどのような影響を与えるかについて記号表記し、プログラムの実行パスや演算の種類等を総合的に解析することで、近似化の影響が大きい度合いについて変数をランキングする。今年度は、より一般的なプログラムコード(浮動小数点数演算等)や汎用的な解析(ユーザ依存の指定)をできるよう拡張し、成果物をGitHubから公開した。本研究成果は、国際論文誌ACM TODAESに採択済みである。 また、実用的アプリケーションに近似計算を適用する場合の知見を得るための調査を行った。IoT/AIにおいて頻繁に活用される教師なし学習の1つであるk-meansクラスタリングに、近似計算の手法の1つであるタスクスキップを適用し処理性能の改善効果を定量的に評価した。タスクスキップは、ある条件を満たした場合、アプリケーションの一部の演算処理を省略して計算量を削減し高速化する手法である。入力データの特徴とタスクスキップによる影響(高速化および最終出力)の関係を解析し、得られた知見を国内研究会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、近似計算化解析フレームワークが解析可能なプログラム記述(コーディングスタイル)をより一般化するとともに、ユーザが指定する制約(プログラムパスの頻度や解析対象の変数の指定等)を取り入れる拡張を行った。プログラムパス数の増大による解析時間の指数関数的な増幅が懸念されたが、変数の相対的重要度のランキング付けをする上では、従来の統計的解析より総解析時間はむしろ削減できることを実証した。本研究成果は、組込みシステムの研究に関する国際論文誌では世界最高峰の1つであるACM TODAESに採択された。 教師なし学習の1つであるk-meansデータクラスタリングの近似計算化については、入力データ(画像のピクセルの値)の近似度とタスクスキップの挿入箇所・実施条件を総合的・定量的に解析した。入力データの性質からタスクスキップの効果について概ねの傾向を説明することができ、k-meansデータクラスタリングのアルゴリズムとタスクスキップの双方の理解に繋がった点は大きな発展があったと考えらえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に開発したフレームワークを基に、様々なIoT/AIアプリケーションに対して積極的な近似計算化(コード変換)手法を適用するとともに、実アプリケーションの近似計算化手法のノウハウをフレームワークにフィードバックする。IoT/AIアプリケーションを処理するアーキテクチャは、一般的に演算資源制約が厳しいため、浮動小数点数演算の代わりに固定小数点演算を用い、さらに有効ビット幅を大幅に削減する手法が適用される。このとき、有効ビット幅の適切な決定は非常に難しい問題であり、本研究で開発しているフレームワークによる自動解析の成果が期待される。一方、昨年度中に解析フレームワークの開発と並行して行っていた、上述のIoT/AIアプリケーションの手動近似計算化のノウハウ・知見を体系化することで、フレームワークの解析精度や効率化を狙う。今年度は本研究の最終年度にあたるため、これらの手法・知見を統合して、IoT/AIアプリケーションのハードウェア・ソフトウェア近似計算化協調設計をFPGA実機上に実現し、近似計算化の効果を定量的に評価することで、解析フレームワークおよび近似計算化設計の有用性を示す。
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