研究課題
本研究計画は、拡散強調MRIおよび定量的MRIを用いて感覚情報を伝達する白質線維束の組織構造を定量化し、さらにMEGを用いた高時間解像度脳活動計測との比較検証によって、白質線維束を介した脳情報伝達効率を明らかにすることを目的とする。平成29年度は、拡散強調MRI法を用いて感覚情報伝達経路を明らかにする研究に進展があった。具体的には、視覚情報と前庭感覚情報の統合に関わると考えられる線維束を拡散強調MRIおよび機能的MRIを組み合わせることで同定した。この成果は原著論文としてBrain Structure and Function誌に掲載された。さらに、当初予定していた通り同一実験参加者からMRIデータ(拡散強調MRI・定量的MRI)およびMEGデータ(視覚誘発脳磁場)を計測する実験を進め、視放線のMRIデータから視覚誘発脳磁場のピーク潜時を予測する分析を行い日本視覚学会で口頭発表を行った。さらにMEGデータから得られたアルファ波の特性と白質線維束の構造特性の関連を調べる研究、視覚野の背側と腹側を結ぶ白質線維束の組織構造を定量MRIを用いて調べる研究を大阪大学と共同で行い、それぞれ視覚研究の国際会議(Vision Sciences Society)で発表した。さらにグレンジャー因果解析を用いてMEGデータ(視覚誘発脳磁場)を解析し、視覚皮質領域間の信号伝播を明らかにする研究を行い、神経科学分野の国際会議(Society for Neuroscience)で発表した。一連の成果に関して、ヒト脳イメージング研究会および International Symposium on Nanomedicineにおいてシンポジウム講演を行った。ヒトを対象として計測された実験データを基にした研究発表にあたっては、プライバシー保護の観点から実験参加者を特定できる個人情報が資料上に現れないようにした。
2: おおむね順調に進展している
拡散強調MRIを用いて過去の知見の少ない白質線維束を調べる研究が進展し、原著論文を出版するという成果を得ることができた。さらに当初予定していたMEGおよびMRI実験が順調に進み、MRIによる視覚白質線維束の構造データからMEGデータで得られる応答潜時データを予測する研究を国内会議で発表するに至った。翌年度はこの研究をさらに発展させ、国際会議等での発表や原著論文の執筆につなげることが期待できる。また平成29年度には、拡散強調MRIおよび定量的MRIデータを組み合わせて取得し、感覚情報処理経路の組織構造を調べるデータ解析のパイプラインを確立することができた。このことがきっかけとなり、大阪大学の大学院生と共同で視覚経路の組織高分子量を調べる研究、アルファ波の特性と白質線維束の関連を調べる研究を実施するに至り、国際会議での発表を行うことができた。このため平成30年度以降は確立した分析法をもとに、連携による成果がさらに拡大することが期待される。
視覚刺激を用いた誘発脳磁場計測では、視覚刺激の呈示条件(視野、コントラスト)ごとに応答の強度や潜時に違いが見られることが分かった。MRIによる視放線の計測との比較に適する条件を検証するため、計測データを奇数回目の試行と偶数回目の試行に分割した場合、どの条件が最も一貫した潜時データが得られるのかを分析する。またMRIデータでは複数の組織構造に関する指標(Fractional Anisotropy, Quantitative T1など)が得られ、それぞれの指標が異なる傾向を示す場合があることが知られている。このため、異なる指標が潜時を予測する上でそれぞれどの程度の寄与をするのかを分析する。加えて、MRI指標と情報伝達効率の生理学的基盤をさらに理解するため、健常実験参加者以外(網膜疾患症例など)のMRIデータを解析する研究を計画している。こうした研究を通じて、どのようなケースでこれらの指標が乖離するのかを明らかにし、先行する病理学的研究の比較からそれぞれのMRI指標の生理学解釈をさらに検討する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 8件、 招待講演 5件) 備考 (1件)
Brain Structure and Function
巻: 223 ページ: 489~507
10.1007/s00429-017-1492-1
https://researchmap.jp/hiromasatakemura/